第37話 デザートは別腹!

 私は、早朝に目覚めた…


 壁の時計は、5時40分を少し回ったところであった。私は、立ち上がろうとしたが、身体が動かない…動こうとすると激痛が走った…全身筋肉痛であった。


 私は、昨日のことを思い起こした…

 昨日、私は3年ぶりぐらいで娘の卓球の練習相手を頼まれて、やることになったのである。

 3年ぶりの卓球練習は、私にはハードワークだったのであろう⁉︎

 娘が卓球を始めた5歳から高校を卒業するまで、私は娘の練習相手をしていた…

 それ以後、運動らしい運動もせず現在に至っている。明らかに運動不足であった。

 近所のゲームセンターの卓球コーナーでやったのであるが、1時間相手するだけでヘトヘトになった…


 私は、ベッドから起き上がることを一旦諦め、ベッドに横になってしばらくボーっとしていた。私は、ベッドでボーっと寝ているのが好きだ。浅い眠りと目覚めを繰り返しながら、数時間気持ちのいい時を楽しんだ。

 しかし、私は尿意を催し起きざるを得なくなった…


 私は、意を決して激痛と闘った。私の全身の関節が「ギィー、ギィー」と錆び付いた音を鳴らす…

 私は、何とか起き上がると壁の時計を見た。もう10時を回っていた。


 トイレから戻ると

「お昼ご飯どうするの?」と妻が聞いて来た。


 今日は、珍しく妻も休みであった。妻の仕事は、シフト制の為休みが合うことがあまりない…


 私は、妻と休みが合うとよくランチに行く店があるのだが、結局今日もそこに行くことにした。


 2人で家から外に出てみると、気持ちいい快晴であった。

 私達は、店まで散歩がてら、歩いて行った。住宅街を抜けて約15分でその店に着いた…


 店の看板には「しゃぶ葉」と書いてあった。

 全国チェーンのしゃぶしゃぶ食べ放題の店である。

 まだ11時過ぎだったので、店は満席になっていなかった。

 店に入ると50前後の女性店員が奥の中央辺りのテーブル席に案内してくれた。

 そして、「当店のシステムは、ご存知でしょうか?」と聞いて来た。

 私は、「知ってます。」と答えると

「では、コースがお決まりになりましたら、テーブルの呼び鈴でお知らせ下さい。」とマニュアル通りの台詞を言って立ち去った。


 私達は、最初からメニューは決まっていたが、鍋の出汁をどれにするか相談した。

 そして、呼び鈴を押した。

 すぐに先程の50才ぐらいの女性店員がやって来た。

 私は、注文した。

「コースは、三元豚バラのコースで、出汁は牛骨テールこく旨だしでお願いします。あと、普通のドリンクバー一つとアルコール飲み放題一つお願いします。」

 店員は、注文を復唱してから去って行った。


 私達は、コースは何でも良かったので一番安いコースを頼んだ。私達の目的は、肉ではなく野菜だった。

 ここの野菜が私達は、好きでそれをしゃぶしゃぶしたかったのだ…


 私達は、野菜バーで大皿にそれぞれ山のように野菜を取った。それから、つけだれコーナーで私はまず、ポン酢ベースにいろんな薬味を入れて席に持って行った。

 私は、一種類ずつつけだれを楽しんで、飽きて来たら、次のつけだれを持って来るというスタイル。

 妻はというと最初から4種類のつけだれを作って、席に持って来た。そういうタイプ。


 それから、私はアルコールコーナーに行き、冷蔵庫からジョッキを出して、ビールサーバーに置きボタンを押した。サーバーのジョッキは、傾けられビールが注がれていく。最後にジョッキを立てて泡を入れて、サーバーは止まった…それを私は取り上げて席に戻った。


 しばらくすると30才前後の女性店員が肉と出汁を持って来た。

 そして、見事な手つきで仕切り鍋に2種類の出汁を同時に入れた。


 出汁が沸騰すると、私はまず三元豚のバラ肉を一切れ箸で摘んで白だしの方に入れてしゃぶしゃぶした。そして、ポン酢ベースのタレにつけてから、口に運んだ。肉とタレの旨味が口の中に広がる。私は、すかさず生ビールを流し込んだ…「旨い!」私は叫んでいた。


 それから、私達は必死でしゃぶしゃぶして肉と野菜を思いっきり、食べて行った。

 つけだれもポン酢ベースの後は、レモンガーリックだれ、その後は、和風だしベースのタレと楽しんで行った。

 生ビールも5杯飲んだので、「飲み放題の元は取れたかな…」と私は呟いた。


 やがて、私達は満腹になった。妻も「もう食べれない!苦しい!」と言っていた。


 私は、もう限界かなと思い最後にドリンクコーナーで水をコップに入れ席に戻った。


 すると、妻の姿が無かった…私は、トイレにでも行ったのかなと思い、水を飲みながら待っていた。


 しばらくして、戻って来た妻の両手には、アイスクリームの入った皿とフルーツポンチの入った皿が握られていた…

 私は、「まだ食べるんだ…やっぱり女の人は、デザートは別腹なんだ!」と凄くびっくりしたけど声に出さず、心の中で叫んだ!


 しばらくの間、「デザートは別腹!」というキーワードが頭から離れなかった…


 妻がデザートを食べ終わると、私はコップの水を飲み干した。

 そして、私達はレジに向かった。レジに行くと1組のグループが会計していたので、私達はその後ろで待っていた。


 その時である…レジの横に置いてある飴が私の目に入って来た。

 その飴には、「特濃ミルク8.2」と書いてあった。その8.2が気になって最初は眺めていたのであるが、そのうち自分の中にある衝動が芽生えていることに気がついた…「この飴を舐めたい…」


 私は、それを手に取り、妻に渡した。

 妻は、言った。

「こんなの何処にでも売ってるでしょう⁉︎ここで買わなくてもいいんじゃない?」

 私は反論した。

「すぐに舐めたいんだよ!それに120円なんだから、いいだろう!」

 妻は、諦めて食事の代金と一緒にその飴を買った…


 私達が店の外に出ると外は夏を思わせるぐらいの強い日差しであった…


 私は、すぐに飴の封を切り、一粒口の中に入れた。

 そして、思った。

「旨い!やっぱり、デザートは別腹だな!」

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