第31話 帯広には無い「サイゼリヤ」

 13時半を過ぎて、玄関で物音がした…


 ゴンタとパンマンが帰って来たのだ。

 帰って来るなり、パンマンがリビングに来て言った。

「ゴンタがネットとエッジばっかりする!」

「そう。」私は、あまり興味がなかったので気のない返事をした…


 ゴンタとパンマンは、昼前から近所のゲームセンターで卓球していたのだ。ネットとエッジというのは卓球の専門用語の略である。ネットとは「ネットイン」の事で、打ったボールがネットに当たってから、相手のコートに入る事である。それを取るのは、非常に難しい。エッジとは「エッジボール」の事で、打ったボールが相手のコートの端に当たり、ボールが上に弾まないで、軌道を変えてそのまま落ちるボールの事である。それを取るのは、ほぼ不可能である。通常、それを打った方が相手に謝る事になっている。


 パンマンは、私の返事には御構い無しに話を続けた。

「ゴンタは、ネットとエッジばっかりやってるのに、全然謝らない!それどころか、あいつは、お前の日頃の行いが悪いんだ!って言うんだよ!」とゴンタの事を言いつけて来た。

 私は、興味がなかったので、

「そう。それより、昼ご飯食べに行くんだろう?」と話を変えた。

 パンマンは、ちょっと焦って言った。

「あっ、そうだった…、シャワー浴びたいからちょっと待って!」

 そして、パンマンは風呂場に慌てて入って行った。


 私とゴンタが、リビングで待っていると準備を終えたパンマンが入って来て、

「さぁ、行こう!」と張り切って言った。


 外に出ると空は厚い雲に覆われて、今にも雨が降り出しそうだったが、私達は気にせずそのまま傘を持たずに歩き始めた。

 駅前を目指して…


 約10分歩くと駅前のビルに着いた。その2階に目的の店があった。そこは「サイゼリヤ」というファミレスチェーン店であった。


 なぜその店に来たかと言うとゴンタの強い希望だった…


 店に入ると女性店員が

「何名様ですか?」と質問して来た。

 私は、「3人。」と答える。

 更に店員は、質問を続けた。

「おタバコは、お吸いになられますか?」

 私は、「吸わない。」と返事した。

 そして、店員が「こちらでお願いします。」と言って、4人がけのテーブル席に案内した。


 席に着いた私は、2人に言った。

「もう2時だから、あんまり食べるなよ!晩ご飯、ゴンタの奢りでご馳走食べるんだから…」

 2人は頷いた。


 そして、席にある呼鈴で店員を呼んだ。

 私達は、店員にそれぞれ注文した。

 パンマンが「ほうれん草のソテー」

 私が「マルゲリータピザと赤ワインのデカンタ500、グラスは2つ」

 最後にゴンタが「たらこソースのスパゲティ」と注文し、店員が注文を繰り返してから去って行った。


 ゴンタがドリンクコーナーに行き、コップに水を入れ3人分持って来てくれた。

「お前、気が効くようになったじゃねーか!」

 とパンマンが言った。

「サラリーマンの下っ端は、こういうことしないとダメなんだ!」とよく分からない自慢をした。

 そして、ゴンタは更に話を続けた。

「サイゼリヤ久しぶりだなぁ〜、帯広にはサイゼリヤが無いから、来たかったんだよ!」

「サイゼリヤ無いんだ?」と私が相槌を打った。

「全国チェーンの店があんまり無い!すき家はあるけど…松屋は無い!」とゴンタは言った。


 やがて、店員が注文したものを持って来た。


 私は、デカンタの赤ワインをグラスに注ぎ、1つゴンタに渡した。そして、3人で乾杯した。


 注文したものを食べながら、私達の取り留めのない話は、更に続いて行った…


 私は、赤ワインを飲みながら、幸せな時を過ごしている事を実感していた…




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