第29話 独特のイントネーションの店
「どうしたの?」娘が聞いて来た…
私は、質問の意味が分からず、
「何が?」と聞き返した。
「何も言わないでボーっとしてるから…」と娘が言う。
「睡眠不足でボーってしてた。結構眠い…」と私は答えた。
私は、夜中の執筆活動と傑作を書けたという興奮で昨夜ほとんど眠れなかったのだ。それに早朝より子供達の卓球練習の付き添いとその後の娘のランニングの付き添いで結構疲れていた…
今は、昨日から娘と約束のランチを食べにある店に歩いて向かっていた。
私達は、駅を越えて駅の向こう側へ出た。そして、更に真っ直ぐ南へ歩いた所にその店はあった。
その店は、如何にもインド料理の店という佇まいの店であった。
店の看板には、大きな字で「GANDHI Palace」と書いてあった。ご丁寧にその下にカタカナで小さく「ガンディ パレス」とも書いてあった。
私達が店に入ると厨房にいた2人が「イ・ラ・シャイ・マセ〜」と独特のイントネーションの挨拶で迎え入れてくれた。
すぐに厨房係の一人が厨房から出て来て、「ドコ・デモ・ドーゾ」と片言の日本語で言った。私達は、奥の真ん中にあるテーブル席に座った。
厨房係の店員は、テーブルにお手拭きタオルと水の入ったコップを置き何も言わず、ただニッコリ微笑んだ。彼は、年齢が20代とも40代とも見える顔をしており、年齢不詳であった。
私は、年齢不詳の店員に注文した。「チーズナンランチを二つ、お願いします。」
店員は、メニューを指差して言った。
「カレー、ドシマス?」
私は、一瞬意味が分からなかったが、娘が店員に言った。
「私は、ほうれん草チキンのカレーで4番の辛口。」
どうやら、カレーは6種類あり、そこから選ぶらしい。辛さも5段階あり選べるみたいだ。
「エビカレーで3番の中辛で。」私も言った。
店員は、頷いてから質問を続けた。
「ドリンクは、ド・シマス?」
娘は「烏龍茶」と答え、私は「グラスビール」と答えた。
「ショショ、オマチ」と言って店員は、厨房に戻って言った。
私達が、注文した「チーズナンランチ」は、カレー、チーズナン、サフランライス、チキンティッカ、サラダ、1ドリンクが付いて1100円税込であった。
私は、1ドリンクの中にソフトドリンクだけでなく、グラスビールも選べるのが嬉しかった…
店員が、ドリンクとサラダを先に持って来た。私は、すぐに生ビールを喉に流し込んだ…「くっ〜!」喉を通過するビールのシュワシュワ感がたまらない…
その時、店に一人の男が入って来た…
その男は、明らかにインド人であった。男は、店の奥に消えて行くと、すぐに着替えて戻って来た。
そう男は、この店の店員であり唯一のフロア係だったのだ…つまり、遅刻して来たということ…
しばらくして、遅刻して来たフロア係の店員がワンプレートに入ったランチセットを持って来た。
「オ・マ・タセ、シマ〜シタ」やっぱり、フロア係も片言の日本語であった…
プレートの上にはカレー、チーズナン、チキンティッカ、サフランライスが乗っていた。中でも、チーズナンがデカいのが4枚も乗っており、凄い存在感であった。エビカレーも見た目が綺麗であった。
まず、私はアツアツのチーズナンを手でちぎって、カレーをつけてから口に運んだ。口の中にカレーのスパイシーな香りとチーズナンのマイルドな旨味が広がった。
「旨い!」と思わず叫んでしまった。そして、すかさずビールを流し込む…
「堪らん!」今度は、心の中で叫んだ…
私は、グラスビールが空になったのに気がついた。店員を呼び、追加で生ビールの中ジョッキを注文した。
メニューの生ビールの値段を見て少し驚いた…そこには、「300円税込」と書いてあった。「安い!」と思ったが、ジョッキがオシャレなスリムタイプのものかな?と疑った。
だが、私の疑問はすぐに解消された…
店員が持って来たジョッキは、寸胴型の普通のジョッキであった。「これで税込300円か…安い…」私は心で呟いた。
フロア係の店員は、「オネガイ・シマス…」と言ってジョッキを置いて去って行った。
私は、チキンティッカを一口食べて、生ビールを一口飲む…「ビールにめちゃ合うなぁ〜」私は感動した。そして、幸せな気分になった…
娘を見るとにこにこしながら、チーズナンを食べていた。そして、「コストパフォーマンスが凄いよ!」と私に言った。
娘は、最近インドカレー屋巡りが趣味らしい…休みの日は、チーズナンの美味しい店を食べ歩いてるらしい。
娘曰く、「ここのチーズナンは、今まで食べたチーズナンの中でも美味しい方だと思う。ここより美味しい店もあるけど、ここの値段を考えるとコストパフォーマンスは、トップレベルだと思う。」とのこと。
私達は、一心不乱にチーズナンセットを食べた。そして、お腹がパンパンになった…
食べ切った私達は、水をゆっくり飲みながら、お互いに美味しかった事とお腹が苦しい事を言い合った。
すると、そこにフロア係の店員がやって来て「オ・イ・シ・イですか〜?」と聞きながら、水を入れに来た…
私達は、そう聞かれると「美味しかったです。」と答えるしかなかった…本当に美味しかったけど…
水を飲み終わった私は、レジで会計した。
そして、私達が店の出口に向かった時、3人の店員達は、同時に「アリガト〜ゴザイ、マシ〜タ〜!」と独特のイントネーションで声を揃えた…
店の外に出ると冷たい風が吹いていたが、私達の心とお腹は満たされていた…
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