第25話 鶏白湯ラーメンと筆文字アート

 私は、ある店の前に立っていた…


 その店には、「只今、営業中」という札が出ていた。私は、少しホッとした。

 先日、この店に来た時、店主の体調不良により店に入れなかったのである。

 その店の看板には、「麺処 飯田家」と書かれていた…


 店に入ると店主らしき男がカウンターの中の厨房から「いらっしゃいませ。」と静かに言った。


 店内は、カウンター席のみ7席という狭い店であった。カウンター席の後ろにテーブルがあるが、今は使われていないみたいである。店員は店主のみであったので、一人で回せるカウンター席だけにしたのであろう⁉︎


 私は、カウンターの端の一番入口に近い席に座った。そして、メニューを見た。ランチセットのメニューを見ると、「白ごはんセット 無料。各種〆めし 無料。」と書かれてあった…

 私は、店主を呼ぶと

「鶏白湯ラーメン並と〆めしの焦がしチーズ」と注文した。

 店主は、「トッピングは、いいですか?」と聞いて来たので、

 私は、「じゃ、味玉をお願いします。」と答えた。

 店主は、注文を繰り返した後、

「先にラーメンをお持ちしますので、麺を食べ終わったら、教えて下さい。」と言った。

 ここの〆めしは、麺を食べ終わった後のスープにご飯を入れて雑炊風にして食べるスタイルだったのだ。


 私は、店内を見渡してみると席の後ろの壁には、額に入った筆文字が飾られていた。最近は、こういう筆文字アートが結構流行っているなぁ〜と改めて思った。

 その前にハンガーがいくつかあり、上着を掛けれるようになっていた。私は、早速スーツの上着をハンガーに掛けた。最近は、結構暖かくなって来ているので、ラーメンを食べる時、ハンガーがあると助かる。


 店の中は、店主が作業に使っているハンドブレンダーの音だけが、

「ウィーン、ウィーン」と響いていた…


 そうこうしているうちに、私の前にかなり深いどんぶりに入った鶏白湯ラーメンが置かれた。

「綺麗な盛り付けだ」と思った。

 トッピングの味玉は、別皿に入っていた。


 まず、スープをレンゲですくってみる…ポタージュスープのような濃厚な見た目であった。そして、口に運ぶ…濃厚そうに見えて意外にあっさりした口当たり、何層にも重なったようなコクのある味わい。旨い!

 麺は中細ストレート麺でスープがよく絡む感じ。チャーシューは、2種類であっさりした鳥のムネ肉のチャーシューと味わい深い豚肩ロースのチャーシュー。味玉は、濃い飴色をした黄身がじつに綺麗で旨い。

 どんぶりの中の調和が素晴らしい…


 一気に麺と具を食べた私は、店主にその事を伝えた。店主は、すぐに小さめの茶碗にご飯を入れ、その上にチャーシューの細切れとチーズを乗せバーナーで炙った。その上にネギを乗せてから私の所に持って来た。

 私は、それをスープだけになった丼に投入した。レンゲで混ぜてから、一口食べてみた。「旨い!」私は心で叫んだ!

 濃厚でコクがある鶏白湯スープと焦げたチーズの旨味を吸い込んだご飯がなんとも言えない風味と旨味のハーモニーを奏でていた…


 食べ終わった私は、満足感でいっぱいであった。

 私は、ゆっくり水を飲んでから、レジに向かった。店主もレジにやって来て、会計した。

 レジの前に名刺が置いてあった。私は、旨いラーメン屋の名刺は、なるべく貰うことにしているので、迷わずその名刺を取ってから、店主に言った。

「ご馳走さま。美味しかった!」

 すると、店主は少しはにかみながら、「ありがとうこざいます…」と言った。


 店を出た私は、先程レジの所で貰った名刺を見てみた…

「筆文字でさまざまな作品をお作りします。まつもり あゆみ」と書かれていた…

 店に飾ってあった筆文字アートの作者の名刺であった…

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