第24話 誰もが満足する定食

 関西電力との打合せが終わり、その建物から私は出た…


 車に乗り込む前に私は、携帯の時計を見た。午後のアポには、まだ時間がかなりある…「ゆっくりランチを食べよう…」と私は思った。


 そして、私は10分ほど車を走らせ、ある店に到着した。看板には「食事処 はせ川」と書いてある。その店は、昔ながらの店という佇まいをしていた。店頭には大きなショーケースがあり、入口は暖簾に引き戸というちょっとレトロな風貌であった。


 この店は、知人である「ディーンフジオカみたいな男」が学生の頃から通っていた店である。私は、彼の情報から去年初めてこの店にやって来た。それから、この近くで仕事があるとこの店に足を運ぶこととなった。


 店内は、テーブル席が7つと狭いカウンター席という感じである。昼間は、この店を厨房で調理する店主とフロア係兼調理補助係の女性店員の2人で切り盛りしている。


 私が店に入ると「いらっしゃい!」という女性店員の声が聞こえた。私は、玄関で靴を脱ぎ、靴棚に靴を入れてから、奥に向かった。女性店員は、少し引きつった笑顔で「こちらの席でもいいですか?」と私に尋ねた。私は、即答で「いいですよ。」と答えて4人掛けのテーブル席に座った。そして、いつも私が座る奥のテーブル席を見た。そこには、6人のサラリーマンが、窮屈そうに座っていた。

 私は、メニューを見てから「すみません!」と店員を呼んだ。すると女性店員は、「ごめんなさい。少しお待ち下さい。」とちょっと焦りながら言った。

 店内を見ると奥の席の6人以外に別のテーブルに2人アベックが座っていた。そして、その8人の前には、料理がまだ出ていなかった。たぶん私が来る直前に一度に注文が入って、パニック気味だったのかもしれない。少しして、女性店員が注文を聞きにやって来て、私は、「からあげ定食」を注文した。


 数分後、客の前に定食が並べられていった。

 そして、私にも女性店員が「からあげ定食」を持って来た。「お待ちどうさま〜。からあげ定食です〜」と可愛らしい声だった。女性店員は、40代後半から50代ぐらいの年齢と思われるが、声だけはかなり若く聞こえた。


 私は、この店のからあげが好きだ。鳥のもも肉のからあげであるが、下味はあまり濃い味ではなく、素材の味が引き立つ程度に薄くつけられている。そのからあげを唐揚げ塩につけて食べるのであるが、それが旨い。鶏肉の旨味が際立つ感じである。食感も外はパリパリ、中はジューシーで肉汁を楽しめる最高の出来であった。

 小皿の出汁巻き玉子は、料亭を思わせる上品な味わい。豚汁は、家庭的な温かい感じがする味であった。

 この定食の料理の調和が見事である。誰もが大満足する定食である。


 私は、食べ終わるとコップの水を飲み干し、テーブルに置いてある水入れから、さらにコップに水を入れ、それを飲んでから立ち上がった。

 女性店員が「ありがとうこざいます。」と言ってレジに向かい、私がレジに到着すると「680円です。」と言った。私が千円札を出すと、お釣りを私の前に差し出す。私が手を伸ばすと店員は、その手に自分の手を添えて「いつもありがとうございます。」と言って釣りを渡しながら、ニッコリ微笑んだ。

 私が、「ご馳走さま。」と言って出口に向かうと厨房から店主の「ありがとうこざいました!」という声が聞こえた。


 外に出ると空は厚い雲に覆われて、少し冷んやりしていたが、私の心はポカポカだった…

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