第23話 揚げたて天ぷら定食専門店

 私は高速道路を車で走っていた…


 目的地は、ある消防署であった。

 高速の出口が近付いた時、私は車の時計を見た。11時47分であった…「このまま行っても、昼休みに入るな…」と心で呟く。


 私は、諦めて先に何処かでランチを食べる事にした。

 この辺りには、結構ラーメン屋もあったが昨日の昼に食べたばかりなので、ラーメンは避けたかった。

 私は、高速の出口を出る時に思い立った…「そうだ、あそこにしよう!」

 私は、インターチェンジを消防署とは逆の方向に出た。


 そして、インターチェンジから約10分でその店の駐車場に着いた。その駐車場は、隣のラーメン屋と兼用の駐車場であった。すでに駐車場は、8割ぐらいが車で埋まっていた。

 車から降りた私は、店の看板を見上げた…

「揚げたて 天ぷら定食 まきの」と書かれていた。店の入口の上には、別の看板があり「揚げたて 天ぷら定食専門店」と書いてあった。


 店内には、かなりデカいオープンキッチンがあり、その周りにカウンター席があった。テーブル席は、5つほどあったがほとんどが2人掛けだった…つまり、メインはカウンター席である。

 私が店内に入った時、カウンター席が少し空いているだけでほぼ満席に近かった。


 私は、50代の細身の女性店員に「お一人様ですか?この席にお願いします。」と席を決められた。この店は、お客が座る席を決めるのではなく、全て店員が決めるスタイルだった。


 私は、メニューを見てすぐに決め、カウンター近くにいた60代と思われる女性店員に注文した。「まきの定食(玉子天付き)」を…


 店には、店員が5人いた。全員が女性で、1人が20代、2人が50代、2人が60代という感じの内訳であった。あくまでも私の予想であるが…


 私は、注文したものが出て来るまでカウンターを見ていた…

 私の前にはすでにお盆がセッティングされていた。お盆の上には、天ぷらを乗せる網付き天台、天つゆと大根おろしの入った器、水の入ったコップが置かれていた。カウンターには、イカの塩辛が入った容器と柚子大根の漬物が入った容器が置かれていた。食べ放題である。私は、早速塩辛と漬物を小皿に取った。すると60代の店員がご飯と味噌汁の入った器を私のお盆に置いた。


 私は、味噌汁を一口飲んでから塩辛をご飯に乗せて食べてみる…「旨い!」この塩辛の塩加減が絶妙であった。これだけでご飯が何杯か食べれそうであった。


 そうしてる間に、天ぷらが運ばれて来た…

 この店は、揚がったものから少しずつ持って来て、お盆の天台に乗せて行くスタイルなのである…高級天ぷら店みたいに…

 天ぷらを揚げていた20代の店員が、天ぷらを持って来て3品乗せた。「舞茸、イカ、海老でございます。熱いのでお気をつけ下さい。」

「デカい!」私は心で叫んだ…天ぷらの大きさにビックリした。

 私は、まず舞茸の天ぷらから天つゆにつけて口に運んだ。

「熱っ!」私は、店員に気をつけろと言われていたのに、上顎を火傷してしまった…でも、サクサクで旨かった。

 その後、海老とイカも食べたが最高であった。素材の旨さが凝縮されている感じの味で食感も文句無しであった。

 少し口の中が油っぽくなったので、先程小皿に取った柚子大根の漬物を食べてみる。油分がスーっと消えて行った。


 その時、ふっくらした50代の店員が、玉子天を持って来てお盆に置き、「特製タレをかけ、お好みで黒薬味をかけて、ご飯の上で混ぜてお食べ下さい。」と言った。

 私は、言われた通りカウンターに置かれてあった特製タレと黒薬味をかけて、ご飯の上に乗せてから混ぜた。そして、一口食べてみる…「これは旨い!」玉子かけご飯みたいだが、ずっと濃厚で深みのある味わい。さすがこの店のオススメである。


 それから、魚2品と野菜2品の天ぷらが順番に運ばれて来たが、全てが大きくてしかも旨かった。

 私は、完食し水をゆっくり飲んだ…お腹は、はち切れそうなぐらいパンパンであった。


 気づくと私の額には、汗が滲んでいた…

 私は、汗をハンカチで拭いてから、席を立った。カウンターにいた2、3人の店員が同時に「ありがとうこざいました!」と言った。


 レジで会計すると細身の50代の店員が「ありがとうこざいました。」と言いながら、ニッコリ笑った。

 その店員は、かなりの厚化粧であったが、私にはその笑顔がとても綺麗に思えた…


 店の外は、生暖かいどんよりとした天気であったが、少し強めの風が吹いていた。

 その風がいやに気持ち良く感じられた…

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