第16話 動きに無駄のない寿司屋

 私は、ある店の前に立っていた…


 午前中にある駅前の個人経営の内科医院で打合せして終わった後、ここにいる…

 打合せしていた内科医院から歩いて1分ほどの所にある寿司屋であった。私は、店頭のメニューを見ていたのだ…

 そして、「うん。」と頷いてから店に入った。店内には、テーブルが7つとカウンター席が13あって、割と広々としており、半分ぐらいの席が埋まっていた。

 私が店に足を踏み入れるとカウンターの中の如何にも頑固そうな職人とフロアにいたおばちゃん風の店員が同時に「いらっしゃいませ。」と言って迎え入れてくれた。

 そして、店員がカウンターの端の席に案内した。私は、すぐに「サービスセット10貫」と注文した。店員は私の注文を繰り返し、カウンターの頑固そうな職人が「はいよ!」と少し低めの声で答えた。


 私は、おばちゃん店員が持って来たお茶を飲みながら、待つことにした。しかし、待つ暇もなくカウンターの頑固職人が直接寿司の入った皿を私に渡した…「お待ちどうさま!」と職人は低い声で言ったが…

 私は、「全然待ってないよ〜」と心の中で返した。私が皿を受け取った直後、フロア側からちょっと小太りの男性店員が現れ、アラの入った赤出汁を私の前に置いた。この店のすべてが無駄のない動きに見えた…


 まず、赤出汁を頂いてみる。アラはたぶんぶりだと思うが少し炙ってから調理されていた。赤出汁に香ばしい香りが漂い旨味が増している。もちろん、生臭さは微塵もない。

 寿司はというと、色合い豊かで調和も取れていた。シャリとネタのバランスも良く口の中に入れるとシャリが解けてふわっと広がった。10貫の味の調和も絶妙で食べていて飽きが来ないで最後まで楽しめた。

 じつに見事であった…「これで税込み880円か…」私は、心で呟いた。


 私は、食べた後、お茶を飲みながら、心地よい余韻を楽しんだ。

 そして、席を立とうと動き始めた瞬間に椅子に掛けてあった伝票をおばちゃん店員が素早く抜き取り、レジに持って行った…私は、少し呆気に取られたが、レジに行き会計した。おばちゃんは、お釣りを渡しながら、「ありがとうございました。」と微笑んだ。じつに無駄がない…


 外に出て私は、振り返り店の看板を改めて見つめた。そこには、「魚河岸のすし えびす」と書かれていた…


 「この近くに来たら、また来よう!」と私は思った…

 そして、春のそよ風が気持ちよく感じられた…

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