第5話 無機質な店員

 私は、車で走っていた…


 午前中に仕事で、あるホテルとの打合せがあったのだ…

 高速を降りて、最初の信号で信号待ちの為、車を停めた。その時、私の携帯が鳴った…LINEメールだった。素早く私は内容を確認した…さん天という天ぷらチェーン店からだった…ちくわ天のサービスクーポンが送られて来たのだ…

 そういえば、さん天にも随分行ってないなぁ〜と心の中で私は呟いた…

信号が変わり、車を動かした途端、目の前に さん天が現れた…私はその前を素通りした。なぜなら、ホテルとのアポがあったからである…


 私は、海が見渡せる高台にあるホテルを目指していた…起伏のある道を抜けると目の前に海が広がった。そして、正面に壮大な明石海峡大橋を望むことが出来た。


 ホテルに着いて、従業員用入口から入り防災センターで受付すると奥の部屋に通された。

 打合せはスムーズに進み予定よりかなり早く終わった。


 午後のアポまで時間があるので、少し早めの昼食をとることにした。

私は、車を走らせ高速のインターチェンジ方面に向かった…

 もちろん、インターチェンジ近くにあった さん天に行ったのだ…


 店の駐車場に車を停めた…少し早い時間だったので、他に車は4台しか停まっていなかった。

 店の券売機に向かった私は、少し悩んでから、39天丼とうどんのセット580円税込のボタンを押した…


 店内に入るとカウンターとテーブルに客が疎らに座っていた…

20代半ばと思われる男性店員が声を掛けて来た…「お一人様ですか?空いているカウンター席にお願いします。」無機質なマニュアル通りの台詞だった。

 私は、カウンターの1番手前の端の席に座った…

すると、先程の少し痩せた神経質そうな男性店員が「食券を頂きます。」と言って私の食券を取ろうとした…「ちょっと待って」と店員を制止しながら、携帯を出し朝送られて来たクーポンを見せた。

 店員は、言った「使用するのボタンを押して下さい…」少し冷めた無機質な口調だった…


 私は、テーブルの上に置いてあるコップに水を入れ、注文した天丼とうどんを待った…

 やがて、私の前に天丼とうどんが並べられた…

 まず、うどんの出汁を啜ってみる…とびきり旨い訳ではないが、チェーン店にしてはまずまずであった。麺は、うどんにしては細麺でそれほど歯応えはないがツルツルしていて、悪くはない…

 天丼は、海老天が一つイトヨリ鯛天が一つ野菜天が3つ海苔天が一つとクーポンでサービスのちくわ天が揚げたてで乗っていた…そこに天丼のタレが少なめにかかっていた。

 私は、イトヨリ鯛の天ぷらを口に運ぶ…表面がサクサクした歯応えで、中はふんわりした白身魚の旨味が引き立っていた…

 タレが少なめなので、天ぷらのサクサク感が損なわれない…タレも少し濃いめだが旨味が口の中に広がる感じで天ぷらとの相性も絶妙であった。

 天ぷらの衣が少し厚めなので食べ進めるうちに少し飽きがくる…そこでテーブルに置いてある容器の大根の桜漬けを小皿にとって食べる。その桜漬けの香りと塩味が口の中をスッキリさせ、また天ぷらを美味しく頂くことができる…


 食べ終わると私は席を立った…

 すると、少し神経質そうな店員が、「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」というマニュアル通りの台詞を無機質な心の篭ってない声で私に言った…


 店を出ると、突然冷たい風が強く私に吹きつけて来て、私は思わず身震いした…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る