第3話 麻婆豆腐
私は、定時になるとすぐに会社を出た…
今日は、仕事の段取りが上手くいかず、全てがちぐはぐな1日であった…
こんな日は、仕事を早めに終わってシュワっとした飲み物を早く飲みたいものである…
外は小雨が降ってはいたが、傘のいらない程度だった…
私は駅に向かい歩き始めた。
歩きながら、携帯で電話した「はい」「何?」「麻婆豆腐」「わかった」
そして、電話を切る…これが私と妻との電話での会話の全てである。
ここからが、本当の私の戦いである…
まずは、第1ラウンドの鐘が鳴る。いい感じの居酒屋…その斜め前に餃子…その後は、焼肉…また餃子…串焼き屋…牛皿…容赦なく店の看板が私の心に攻撃してくる。
どうにか、攻撃を掻い潜り…改札を抜けて、駅に逃げ込む。第1ラウンド終了であった…
息を整え、ゆっくりとホームに上がると、ちょうど西明石行きの各駅停車がホームに滑り込んで来た…電車内は、そこそこ混んでいたがすし詰め状態という訳ではなかった…
一駅で尼崎駅に着いて、エスカレーターで改札に向かう…改札を抜けて左に歩いて駅の構内を出た所にいつも立っている女性が今日もいた…
その顔を見るといつもホッとする…
私は、心の中で彼女に呟く…「梅川ちゃん、ただいま。」彼女は無言で微笑んだ…気がした…
そして、梅川ちゃんと別れた直後に第2ラウンドのゴングが鳴った。
まずは、キリンビールの提灯の居酒屋…創作料理…餃子…串揚げ…牛丼…焼鳥屋…寿司…
貴志ずしを過ぎた時、第2ラウンドは終了した。
その後も居酒屋、スナック、お好み焼き屋はあったが、3ラウンド目は始まらない…つまり、あまり唆られる店ではなかったのだ…
気付くと辺りは暗闇に包まれかけていた…
ようやく、家に着くと窓には灯りがともっていた…
家に帰るとすぐに我が家特製麻婆豆腐とビールがテーブルに並べられた…
もちろん、私が帰りに電話したのはこの為である…
大きな器に入った麻婆豆腐を自分の器にスプーンで取るとそこに辣油をかける…
そして、缶ビールをプシューっと開けて喉に一気に流し込む…ク〜っ、幸せなひと時…仕事での嫌な出来事が洗い流されて行く…
次に麻婆豆腐を口に運ぶ…ニンニクとカツオ出汁が効いた挽肉の味が口の中に広がる…
我が家特製の麻婆豆腐は、和風麻婆豆腐なのである…私は、子供の頃からこの麻婆豆腐を食べている…母が作っていた麻婆豆腐…今は、妻が作っているが味は少し変わった…妻のアレンジが入っているからだ…
この麻婆豆腐が今では、我が家特製麻婆豆腐である。
私は、この麻婆豆腐が好きだ…
これを食べると幸せな気持ちになれるから…
今夜は、ビールを一本にしておこう…
明日も戦うには、ほろ酔い気分がちょうどいい…
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