第5話たばこ

嫁にたばこを疎まれるようになったのは、長男が産まれた頃だろうか?

それまで、さほど注意も受けずに来ていたので、いきなりのホタル族の仲間入りしたのは、悲しいものであった。

それにだ、嫁が実家に帰っていたので、久々に気楽に、たばこを部屋の中でスパスパ吸っていたところ、帰ってきた嫁に始めに言われたことが、「吸ったでしょう」だったのには、正直落ち込んでしまった。

ある日、嫁が近所の奥様連中と旅行に行くことになり、長男と二人でお留守番することに、

その時、ドンドンドン、と扉が叩く音が鳴り、時計を見ると0時を過ぎていた。

「どちら様ですか」

不気味な訪問者に内心ビクビクであった。

「こちら、藤田 優さんのお宅ですか?」

「優は、僕ですが。」

「藤田さん、あなたのお悩みを抱えておられる。そこで、あなたにこれを差し上げます。」

ポストの中に何か入れられた。

「これで、あなたのストレスは解消されることですよ。但し、注意事項がありますので、けして無視なさらないように」

僕が扉を開けると、その声の人物はもう消えていた。

ポストの中を見ると封筒があり、その小さな箱と手紙があった。

箱を開けると、たばこが二十本入っており、手紙には、このたばこには、他人が嫌がる煙の臭いが全くです、気付かれないとのこと、それでは、電子たばことかわりないと思われるが、

吸ってる本人は普通のたばこ、それも好みの種類になり、無くなれば箱の蓋を閉じて、1日おくと、また二十本入っているとのことだ。

但し、注意事項が、けして他のたばこを吸ってはいけないとのこと、それだけ守れればいいとのことであった。

その日、二本たばこを吸ってみた。気楽に吸えて嬉しかった。

嫁が帰ってきた。文句はなかった、これが手紙に書かれているのが証明された。

それからは、隠れながらトイレから嫁が風呂中まで、吸いまくった。

だが、時間が経つと、自分が本来吸っていた銘柄に手を出したくなった。

仕事場の喫煙所で、友達が持っていた同じ銘柄のたばこを一本貰うと吸ってしまった。静かな気持ちになったと同時に、ジリジリジリと電話の音が鳴り響いた。

僕は、その電話になぜか出てしまった。

「藤田さん、約束破りましたね。注意事項まで教えてあげたのに・・・残念です。このたばこには、他のたばこの煙と体内の物質により合わせるだけで、有毒なガスが出るようにできてます。近くで、他人のたばこを吸ったりしても、毒は作られませんが、直に吸うことは、決してしてはいけないのです、」

眼を覚ますと喫煙所で寝ていたようだ。休憩はとっくに終わっていたので、立ち上がろうとすると、いきなり、身体中が熱くなっていく。

あの夢が現実だったのかは分からないが、私は苦しみながら、喫煙所のなかで死んだ。

その後の解剖で、遺体からは毒などは見つからず、自然死として、墓の中におくられた。

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