11話 修学旅行とは願望のグラウンドである
陽明館高校イベント、軽井沢短期修学旅行 ――――
三泊四日の期間で様々なイベントを練り込んだ、高校二年生にとっての2大行事の一つである。多くの生徒はこの修学旅行にさまざまな幻想(・・・いや、妄想だな)を抱き、そして最終日の夜には『告白祭り』と言われるほどの多くのカップルが成立(するのだとかしないのだとか)。
このような社会現象は『軽井沢マジック』と呼ばれている。そしてこの軽井沢マジックで出来たカップルの大半は夏休み終盤で別れるというのもまたジンクス。ざまぁみやがれッ!!!その場のテンションで告るからだぜッ!!
・・・コホン、ま、まぁこのような理由もあって軽井沢は大変楽しみ勢がかなり多いのだ。かくいうこのお方もその一人、そいつの名は・・・
「なぁぼっしー、俺はこの修学旅行でリア充になるぞッ!!」
そう、片岡である。
今は軽井沢まで組ごとに分かれてバスで移動中。今は知人とバスで隣同士の席である。ちなみに松本は『両手に花』気分を味わえる最奥座席のロングシートである。しかしその両隣は男子だがなッ!!!がはははは!!!!!
「・・・でもぼっしー、よく班にあのお嬢様を入れられたなぁ。まぁ美鈴とも仲がいいらしいからそれでだろうけど。」
ちなみに片岡は美鈴のことをそのまま『美鈴』と呼んでいる。二人は本当に小学校からの付き合いだそうだ。
「まぁな、麗加と美鈴とは同じ部活でな。成り行きで決まったんだが。」
「ははッ、多分美鈴が組もうよって言い出したんだろ?すぐに予想できるなぁ・・・」
いやまったくその通りですよ。地味にコイツも美鈴のこと知ってるんだなぁ・・・
「ねぇねぇ片岡くん、なんか恵美ちゃんが気分悪くなっちゃったみたいなんだけどどうしよう・・・!?」
と言ってきたのは、後ろの座席に座っていた同じクラスの女子。そう、片岡はこのクラスの学級委員、信頼株がなんと先生より高いのだそうだ。
・・・いや、松尾先生がこっち見てますけどめっちゃ『じゃあこっち来てよ!』って顔してますけどいいんですか?
「それは大変だね・・・じゃあ一応この酔い止めの薬を飲ませて様子を見てみよう。ダメそうだったらみんなには悪いけど近くのサービスエリアで止めてもらおう。」
そう言ってカバンからひょいっと酔い止め薬を出す片岡。何だよコイツ万能人かよ。
そして10分後・・・
「片岡くん!恵美ちゃんがだいぶ良くなったって!!ありがとね!」
そしてその恵美ちゃんとやらもひょっこり顔を出して
「ありがとうね片岡くん、お陰で助かったよ・・・」
「あぁ、大丈夫ならいいんだ。現地についたら一応少し休んどいてね。」
そして見事なフォローで『片岡劇場』は幕を下ろす・・・
美鈴が好きになる理由は、これでお分かりいただけただろうか。
まぁもう少しエピソードはあると思うが・・・
片岡は再び知人の隣に戻ると、
「よしッ、彼女作るぞ~!!」
と意気込んでいた。いや君は結構楽勝だと思いますよ?
「そういえばぼっしーは彼女欲しくないのか?いつもゲームの話だかりだし、そういうのはやっぱ興味ない・・とか?」
「う~ん、興味ないことはないけど・・・なんか今はゲームにドハマりしているからあまり考えてないだけかな?」
「そうなんだ・・・ぼっしーにもし彼女が出来たら御祝儀みたいなことはしてあげるよ、なんてな。」
「あはは!はいはいあんがとなー。期待しないでまってるわ。」
そうして結構な雑談が繰り広げられているうちに、生徒を乗せた計5つのバスが全部軽井沢のホテルに到着した。
ここは長野県北佐久郡軽井沢町 ―――
日本の避暑地として有名なこの場所は、温泉や商業施設、少し離れた場所には歴史的建造物も有する人気の観光スポットでもある。駅近なこのホテルからは夜には煌々と照らされる商業施設の光達と軽井沢駅が綺麗に見え、東京のそれとは少し違ったものが見えてなんか良い。
ホテルということもあり、部屋は2人で一つ。男子は3・4・5階、女子は6・7・8階と分かれていて、まぁ侵入は禁止されてるから変なことは起こらなさそうだ。ということで知人の部屋友は片岡になっている。
明日以降の予定といえば・・・いや、もう全部の予定を言っていこう。
最終日には上田の方に行くらしいが、それ以外の予定欄をご覧いただきたい。
『班ごとに各自自由行動。前日までに行く予定の場所を担任に報告すること。』
こんな修学旅行あるかよ(笑)、先生共どれだけ楽したいんだよ休む気満タンかよ
・・・というわけで、俺達17班の明日の予定は軽井沢周辺散策と、午後は小諸の懐古園。
そして夜が明けてただいま2日目。
生徒全員ホテルのロビーに集合、点呼が完了するとそのまま言ってよしという放任主義の先生たち。
かくいうこの先生もその一人だ。・・・いや、この時間から遊ぶ気満々のその格好はやめとけってさとちゃん先生。
「よし、じゃあ17班は・・・おぉ、飯田たちの班だったか・・・。全員いるか?」
「はい、4人全員いますけど。」
「よし、確か君たちはアウトレットと懐古園・・・だったな。よし、行ってこい。」
この修学旅行では、初日と最終日以外は基本私服で過ごすことになっている。まぁ制服でもいいのだが、この状況で制服を着る程の勇気のあるやつと私服のセンスがダサすぎるやつは存在しない。
よって俺と片岡は、残りの2人の私服に少し驚いているのであった。
「・・・今日もなんかすごいな麗加・・・」
「美鈴、お前・・・やるじゃないか!似合ってるぞ!ちゃんとかわいいよ!うん!」
「そうかしら?まぁお礼を言っておくわ、ありがとう。」
「た、たけちゃん・・・///って何よ『ちゃんと』って!?普通に『可愛い』って言ってよ!!////」
というわけで17班、修学旅行の幕開けである。
まずは軽井沢最大の商業施設、『四井アウトレットパーク』。
「なぁ片岡、お前そろそろマシな私服買った方がいいんじゃないか?それちょっとダサくね?」
「お、まさかそれをあのぼっしーに言われるとは思わなかったぞ。似たようなものだろ?」
「・・・二人とも下の上ってトコロよ。」
「そ、そんなになのか・・・」ズーン
「それなら確かに買う必要があるな・・・」ズーン
麗加の容赦ない『口撃』に、二人とも心がおられそう。
「・・・まずは二人の私服選びにしましょうか。すずちゃんいい?」
「え、あ、うん!!」
すると麗加は、急に美鈴と距離を詰めて
「ここで片岡くんと良い雰囲気になるのよ!?すずちゃんいい?」コソコソ
「えッ?い、いきなり・・・!?」コソコソ
「何言ってるのすずちゃん!?片岡くん結構優しくて女子の株は高いって聞いてるのよ!?取られたらどうするのッ!」コソコソ
「え、えぇ・・・////」コソコソ
「大丈夫よ!昨日立てた作戦ならいけるわ!ほら、思い出して・・・!!」コソコソ
「・・・あ、あれだね!!よし、頑張るよ・・・!!」コソコソ
「コホン・・・じゃ、じゃあ私はぼっしーくんをコーディネートしてあげるわ!すずちゃんは片岡くんをコーディネートしてあげて!」
「え?あ、あぁ・・・じゃあ宜しくな麗加。」
「さッ、さぁ?!たけちゃんは私がコーディネートしたげるッ!!」アセアセ
「あ、あぁ・・・じゃあ頼むわ美鈴。」
そして17班は同じ店で2人ずつに分かれてコーディネートを開始。
まずは知人&麗加サイド。
「な、なぁ・・・これってひょっとして、あの二人をくっつけるための何かか?」
「そうよ。すずちゃんは片岡くんに対してだけは部活の時みたいなテンションで話すことが出来ないの。でもすずちゃんはもっと片岡くんと話がしたいそうなの。だからこの機会に二人の時間を多めに作ってはどうかと思ったワケ。」
それでまず第一に『一緒に服選び』か・・・。確かにリア充イベントの定番だしな。
・・・でもそれってこっちも同じってことじゃね?
「・・・な、なぁ麗加。」
「ん、どうしたのかしら?」
「これってひょっとしてさ、俺のコーディネートって麗加がしてくれたりとかするのか・・・?」
「えぇそうよ。何かまずいかしら?」
・・・思い出した
確かコイツはそういうのを全く意識しないヤツだったわ。だって同じ部屋で寝た時もそんな感じしなかったからなぁ。
「・・いや、別にな。じゃあ宜しくお願いします。」
「ふふッ、任せて頂戴。ぼっしーくん顔はまぁまぁ整っているのだし、私が服装もキメてあげるわ!!」
そしてそれから15分後・・・
「・・・ふう、これでどうかしら?イケてる感じになったと思うわ!」
ま、まぁ確かに見た目はかなりマシになったけどさ・・・
あ、あの~・・・
このコーデ、合計4万3200円なんですけど?修学旅行開始1時間弱ですでに所持金が底を付きそうなんですけど。
「れ、麗加・・・もう少し経済的なコーデで頼む。さすがに4万オーバーは無理だ。」
「仕方ないわね・・・じゃあこのアクセサリーでも取りましょうか。これでどうかしら?」
いや、それとってもまだ4万ですけどぉ?
「あの、もうふた頑張りくらい欲しいんだが・・・」
「・・・じゃあそのコーデはプレゼントしてあげるわ。さすがにさっきの格好ではダサすぎるもの。」
「いやダサすぎるって・・・ってかそこまでしなくてもいいぞ?出させるのはなんか申し訳ないし・・・」
「いえ、この出費は訳ないわ。私の今の所持金は優に10万を超えているの。私自身あまり買い物はしないから問題ないわ。」
「いや、だがな・・・」
「それに・・・今日はぼっしーくんのお誕生日、でしょ?」
「えッ!?なぜそれをッ・・・!?」
「昨日片岡くんに聞いたの。ぼっしーくん今日が誕生日だって。だからこれは誕生日プレゼントよ?これで受け取ってくれるかしら?」
「・・・分かった、ありがとな麗加。」
と、こんな感じで結構いい雰囲気になっている。まぁ二人の場合はあまり意識していないからだが・・・・
もう一方、美鈴&片岡サイド ―――
「あ、あの・・美鈴?大丈夫か?」
「へッ!?あ、だ、大丈夫だよッ!?」
「・・・そんなに顔赤くしてるけど?」
「だ、大丈夫だよたけちゃんッ!!///じゃあ選ぼうか!!」
麗加(だ、ダメねこれは・・・すずちゃん照れすぎよ!!)
とにもかくにも、修学旅行はまだ始まったばかりである。
つまりまだまだチャンスはいくらでもあるッ!!とうことだ。
2日目のドキドキ大作戦(仮)は、次回へ続く ―――
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