8話 『何かしてる』って、こんなに楽しい


俺は飯田知人、ゲーヲタの高校二年生。

ゲームばかりしてきた、世間ではダメダメなヤツ

俺の高校ライフのどこにも波がない、そんなつまんない生活を送ってきた・・・


しかし、俺は今 ―――





「じゃ、おやすみなさい。」

「~~~~~!!!!///////」バクバク






モーレツな高波を越えようとしていたッ!!!!


い、たッ・・・!!!!





そう、ただいまこの俺

あの明石麗加と同じベッドに寝ているという超常現象に立ち会っている最中である。


だがあえて言おう・・・






―――― どうしてこうなったぁ??






♢ ♢ ♢ ♢ ♢


――― 30分前


今の時間、知人はAKSメディアカンパニー社長で麗加の父・明石亨さんのお頼み通りにコントローラを握り、OREを起動しマグレイオスとのただいま対戦中。

亨さんはただじっと知人のコントローラを見ている・・・いやなんでコントローラ?


「・・・」グッググッ

「・・・」ジー・・・


・・・

いやめちゃめちゃ見るぅ~~~~!!!!


「・・・やっぱり知人くんは捌きがうまいね。麗加の言ってた通りだよ。」


「あ、ありがとうございます・・・」


コントローラしか見られてないのにその捌きで褒められた知人。


「・・・でもやはりアバターの動き方に多くの無駄があるようだね。確か君はeスポーツ部に所属しているのだったね。そこで腕を存分に磨くといいよ。」


しかしさすが社長、きちんとゲーム画面も見ていたようだ。


「・・・はい、がんばります。」


「うむ、では知人くんもそろそろ寝るといいよ。樺山、開いている寝室はどこかあるかい?」


『樺山』というのは、明石邸に勤務するメイドさんの樺山美央みおさんだ。ちなみに先程亨さんの帰宅を知らせていたメイドさんは樺山さんである。ちなみに名前はつけてる名札で分かったものだ。

樺山さんがポッケのケータイに番号を入力して空室確認を行うが・・・


「・・・申し訳ありません旦那様、ただいま空いているお部屋はございませんとの連絡が入りました。」


「え、ないの?マジで?」


「はい。ありません。マジです。」


「そうか・・・どうしようかな・・・・」


「・・・ところで旦那様、奥様からのご伝言もございますがどうなさいますか?」


「え、美代子が?」


『美代子』は亨さんの奥さんで麗加の実の母親、明石美代子みよこさんを指す。

まぁ雰囲気で分かるよね?


「はい、こちらに録音されていますので。」


樺山さんは自分のスマホ内で録音アプリを開き、録音データを検索してスタートボタンを押す。

そして聞こえてきたものとは、知人が想像していたよりもずっと・・・・・みたいなものであった。

ではお聞きいただこう。



『あなた勝手に私のド〇クエ5のカセット持って行ったでしょ・・・!!??覚悟しなさい・・・!!!』



「・・・以上、奥様からでした。」


えッ・・・くだらなッ・・

知人は録音内容に少々あきれながら隣を向くと、録音を聞いた亨さんの額には何と大量の冷や汗が。

しかも顔めっちゃ青いんですけど。

え、そんなにヤバいの?


「奥様は大のド〇クエファンでして、特に5ではビ〇ンカというキャラクターにはその壮絶な人生に深く共感し、石化が解けたときには涙までしていたほどなのです。(※分からない人は是非ググってみてね!)確か今日でラスボスのミ〇ドラースを倒す予定だと伺いました。」


「ッ!!??」


あからさまに『ヤベぇぇぇ!!』という表情。


「・・・そんなに怒ると怖いんですか?」


「はい。奥様は普段はお淑やかで優しいお方なのですがド〇クエになると途端に熱が入り、さらに奥様は『勝手に持ってかれる』ことが最も嫌いなのです。」


さ、さいですか・・・


「帰ったらすぐ来るようにとおっしゃっていました。ただいま帰宅から16分32秒が経過中です。」

「みおちゃんそれ先に言ってよッ!!!」


亨さんはすぐに退室の準備、そして出る際に知人へ一言


「すまないが今日は麗加の部屋で寝てくれッ!!じゃッおやすみッ!!」バタンッ!


と言って、まっすぐ隣の部屋へと向かっていった。


「・・・ということで飯田さん、麗加お嬢様のお部屋へ案内します。」

「あ、はい・・・ってちょちょちょちょちょ!!!」


「え、何か問題でもありましたか?」


いやありまくりだと思うんですけどぉ!?

同じ屋根の下だけでなくまさかの同じ床の上ですよ!?いいんですか!?俺何するか分かりませんよいいんですか!?

そこまで俺のこと信頼してもいいんですか!?


「問題もなにも・・・というか、麗加の方がダメだって言うと思いますよ?俺はそこらへんの床で寝れますから・・・」


「いいえ、それはなりません。私は旦那様の指示にしたがって飯田さんを麗加お嬢様と同じ部屋へ誘導します。」


・・・って言ってるけど

アノ顔絶対『面白そう・・・!!』って思ってるだろそうなんだろ

てかもうちょっとニヤケ我慢しろよ樺山さんよ


「・・・だったら、麗加が良いと言ったら今日はそこで一泊します。」


麗加は絶対に俺を拒否るはずだッ!!

会って一週間のゲーヲタ男と同じ部屋で寝るなんて身の毛もよだつ確率100パーセントッ!!!!

・・・はは、言っててなんかむなしッ


しかし



「ふーん、別にいいわよ?飯田くん入ってきなさいよ?」


ってえぇぇぇぇぇぇ!!!!????


「というわけで私は失礼します。二人ともおやすみなさい。」

「はい、おやすみなさい・・ってえええええ!!!???」

「おやすみなさい・・・樺山さんなんでそんなにニヤけているの?」


そしてほんの数秒後にはついに二人っきりに。


「・・・さて、寝ましょうか。でも生憎この部屋にベッドは一つしかないの。だからね・・・ ―――


お、このパターンは『だから早く出ていけ』ってことですか?そうですよね?

だってこんな俺が学校のスーパー美少女と同じベッドで寝られるワケないじゃん!?


「分かった、じゃあ俺は外d・・ ―――

「ベッドを二つに分けて寝るから狭いのは我慢しなさい、いいでしょ?」






♢ ♢ ♢ ♢ ♢


というわけで、ただいま飯田知人はラッキータイム満喫中

・・・というのはめちゃめちゃウソで、本当は心臓バクバク止まらずに目はガン開き。


(おおおお~~~~!!!/////)


「・・・結構このベッドフカフカなんだけど、寝られそう?」


「(いや寝れるわけねーだろー!!バカか!?)・・・まぁ、ボチボチぃ?」



月明りが優しく静まり返った部屋を照らし、そとから初夏の涼し気な夜風が流れる麗加の部屋のなか。

この頃ゲームの練習でロクに寝ていなかった知人を、本来ならゆっくり休める最高のロケーションであった。

しかし今、知人はというと・・・



そのまま深夜2時過ぎも両目ガン開き。



「・・・寝れないの?」


「おぉ麗加・・・そっちも寝られないのか?」


「まぁね、今日はゲームのことで頭がいっぱいよ・・・」


「・・・そうか、」


俺はこの状況で頭いっぱいだけどね~!!



「・・・今日の大会、飯田くんはどう感じてもらえたかしら?」


「今日か?・・・まぁ今日は色々な意味でゲームが好きになったよ。」


「好き、に・・・?」


「あぁ。自分が好きなゲームには自分より上手なプレイが出来るプレイヤーが何百人といて、そんな人達とやるゲームの反省会をやってもらったりとか・・・なんかそういうのが楽しく思えちゃってさ。」


「そう・・・なの・・」


「あぁ。今まで『自分は何かをやっている』ってここまで感じたことなかったからかな、なんかeスポーツ部に入ってからは驚きと楽しさの連続さ。麗加や西京にも出会えたし・・・松尾先生には感謝しないとな。」


「・・・」


「だから今日の大会は楽しかったよ。だから誘ってくれてありがとな、麗加・・・」



これは本当の気持ちだ。

今まで特別大きなことはしてこなかったししようとも思わなかった。でもこの大会では『優勝したい』って思ってそのためにたくさんの『練習プレイをした』。このプロセスは無条件で心に響く。

色々なことも知れたしな。完璧令嬢・明石麗加はゲーム大好きORE開発責任者、鬼教師松尾はBL大好きさとちゃん先生、西京はゲーム内ですげー才能を持っている・・・とか。


「・・・やっぱりあなたって少し変わってるわね。」フフッ


「そうか?」


「えぇ、普通の人なら今日の敗戦をそこまでポジティブに受け取れないもの。」


「そんなモンなのか・・・」


「いい?eスポーツの世界は見るだけだったら色々なアクションプレイが見られる博物館みたいなもの。でもプレイする側になると、それは自分を苦しめる攻撃になる。でも中にはその攻撃を吸収するプレイヤーもいる・・・そういう人達を『挑戦者』っていうの。」


「・・・」


「そうやってeスポーツは大きくなってきたの。でもその背景には数えきれないほどの脱落者がいる。」


「・・・そうか。」


「そう、だからね・・・」


「・・・?」





「私達は、ずっと挑戦者でいようね。」





「・・・あぁ、だな。」



「うん、頑張ろうね・・・ ―――






・・・ぼっしーくん ――――







そして創立記念日はすぐに過ぎ、通常授業日の放課後。



「なぁぼっしー、今日もまたどっか行くのか~?」


「あぁ、俺部活入ったんだ。だから今からそっち行くことになってる。」


「ま、マジでッ・・・!?あのぼっしーがッ・・・!?」


「おい松本、そこまで驚かれるとちょっと傷つくぞ。」


「まぁまぁ松本、いいじゃないか~?あのぼっしーが自分で入った部活なんだから。」


「・・・まぁそれもそうだな。頑張れよぼっしー!!」


「あぁ、あんがとな!」




――― ・・・あ、いた!さぁぼっしーくん、早く部室行くわよッ! ―――



「え、あれって超お嬢様の明石麗加・・!?」

「しかもぼっしー、今『ぼっしーくん』って呼ばれてたよな・・!?」

「まぁな、俺の部活仲間だ。・・・じゃあちょっと行ってくるわ!」





こうして


ゲーヲタ高校生・飯田知人の、スポーツプレイヤーとしての道は・・・





今、桜色に色づいていく ――――







第1章 終

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