7話 今から反省会を行います


それから松尾先生は知人に電話、麗加は車の迎えを呼び、急遽大会の反省会を開くことにした。

松尾先生が電話を掛けたところ、なんと知人は学校で快司とひたすらOREのマグレイオス対戦をやっていたのだそうだ。

今回は知人だけを呼び出して、現在3人がいるのは何と明石邸である。



「ど、どうしたんですか先生?こんな遅い時間に来てくれって・・・?」


正直今はここにいるより早くORE対戦をしていたい・・・そんな思いがソワソワ感で諸に伝わってくる。

さらに距離もまた遠いのだ。

学校がある高尾駅から電車でおよそ1時間半の場所にある神奈川県の青葉台駅が最寄り駅のこの明石邸だが、今は時間も結構すぎてなんと夜の9時前である。


「飯田、夜遅くに済まないな。今日のこの時間で反省会を行う。」


「え、この時間にここでですか?ってか教師が生徒を遅い時間に引っ張り出してもいいんですか?」


「まぁ本当はダメなのだが・・・というか飯田も結構な時間まで学校でゲームしていたのだろう?」


「ま、まぁそうですけど・・・」


「飯田くんごめんなさい。でも今大会の飯田くんの成績の中に面白いモノがあったのよ。それも話していくわ。」


「お、俺の成績の中に・・・?俺は一次敗退者だぞ?」


「えぇ、確かにあなたは301位で敗退したわ。」


「えッ、301位?」


めちゃめちゃ惜しかったのか!・・・でもまぁ結構高いところまで行ってたんだな俺って。


「・・・でもそんなあなたの成績の中にはこんな内容があってね。まずは質問してもいいかしら?」


「えッ?ま、まぁいいけど・・・」


こんな夜遅くにここまで真面目にゲームの反省会をするなんて今まで経験してこなかった知人は『ゴゴゴ・・・!!』と横らへんに描いたらめちゃめちゃマッチしそうな感じの表情の麗加を見て、若干の恐怖まで感じているほどだ。

まぁあっちはめちゃめちゃ真剣なんだろうから、こっちも真剣に聞こうと思ってはいるが。


「まず一つ目ね。あなた、なぜ難関技の『イービルステロイド』を使っていたのかしら?」


「え?ま、まぁ下見に結構な時間がかかったから早く倒すための手段としてこの技を使ったんだけど・・・」


「なるほどね・・・」


(・・・狙って出した技ってことね。偶然という選択肢はこれでなくなったわ。)


「じゃあ二つ目。なぜ下見の時間を多めに取ったのかしら?」


「まぁそれは普段使ってるキャラじゃないから慣れるのに時間がかかったっていうか・・・」


(・・・技を打つタイミングが分からずに手が出せなかったわけではない・・・ということね。)


「・・・分かったわ。ありがとう飯田くん。ではそれらを踏まえて今日の飯田くんの反省点を挙げていくわ。」


「あ、あぁ・・・お願いします・・・」






それから約1時間弱が過ぎ、しかしその時間は決して退屈することもなく

麗加は様々な改善余地を知人に伝えていった。

まずは下見時間の取り過ぎ、さらには攻撃回数が少なすぎ、あるいは敵の攻撃を避け過ぎなど・・・

知人が今まで考えていなかった点まで隅々と麗加は教えていった。・・・まぁその横で一応さとちゃんも聞いてたけど、まぁあまり役には立たなそうだよね?



「・・・ふう、まぁこんな所かしら?今日挙げた点を明日から直していくわよ、いい?」


「あ、あぁ。ありがとな麗加さん・・・」


「・・・あと、その『麗加さん』ってやめてくれない?普通に『れいか』って呼んでくれないかしら?」


「・・・へ?」


「へ?じゃないわよ。だから『さん』を外して普通に『れいか』って呼んで欲しいって言っているのだけれど。」


・・・ちょとまてちょとまて

今まで女子を下の名前で呼んだことなんて、小学校以来ないんですけどッ!!??

しかも小学校が一緒でその時は下の名前で呼んでいた女子を中学でも同じふうに呼んだらさ、なんかいやそーな眼と顔で


『え、なんで名前で呼んでくるの・・・?』


ってマジレスされた経験まであるんですけど!!あれからめちゃめちゃトラウマなんですけど!!


「はぁ・・・別に私はそんなこと思わないから大丈夫よ。」


「えッ!?今おれ口に出てたッ!?」


「えぇ、思いっきりね。飯田くんの可哀そうでみじめな一片の過去が数秒で理解できたわ。」

「い、飯田ッ・・・お前、苦労してんだなッ・・・!!」グスッ


現在知人は可哀そうな人を見る目と哀れみの眼の二枚ばさみ状態。

いやもうむしろこっちの方がトラウマになっちゃいそーなんですけど・・・


「いい?だから今度からは『れいか』って呼ぶのよ?」


「わ、分かった・・・分かったから・・・」


「なぁ飯田ぁ、私のことも良かったらさとね先生t ―――

「すみませんそれは無理です」

「即答かよッ!?」エエッ!?



そのような雰囲気で話していると、奥の扉が開き


「失礼いたします。麗加お嬢様、ただいまお父様が御戻りになられました。」


と、この明石邸に努めるメイドさんが主人の帰宅を知らせに来た。


「あらそれは丁度いいかもしれないわ。ちょっと二人ともお待ちください、ただいま父を呼んできます。」


そう言って麗加は部屋を後にし、先程のメイドさんと共に玄関の方へ向かっていった。

麗加・・・のお父さん?

それって・・・この大会の主催者であの大企業の社長さんってことでしょ・・・!!??

や、やべぇ・・・なんか知らんが手汗出てきた・・・


「・・・飯田、そこまで心配しなくても大丈夫だ。明石さんは思っているほど怖い方ではない。」


「え・・・先生知り合いなんすか?」


「まぁな。」


何で知り合いなんですかと聞こうとした瞬間に麗加ともう一人の男性の声が聞こえたので、そのまま聞くのをやめた。

そしてこの邸の主で麗加の父・明石亨あかしとおるが、部屋の扉を開けて二人の前に姿を現す。



「やぁ、ようこそお二人さん。私はここの主で麗加の父・明石亨と言います。どうぞ宜しくね。」


そして軽く会釈。

・・・確かに温厚そうな見た目と雰囲気が伝わってくる。


「いやぁこんばんはです明石さん!今回も出場させていただいてありがとうございましたぁ!」


と言ったのはまさかの松尾先生。え、何で?

めちゃめちゃなれなれしい態度じゃないっすか!!仲良いんですか!?


そのままボケーっと驚いていると、


「あぁ、そう言えば飯田くんには言ってなかったわね。松尾先生はお父さんの会社がスポンサーになっている端くれプロゲーマーさんなのよ。」


「へぇ・・・」


「・・・」



「えぇぇぇぇぇ!!!!???」



かなり驚く知人の視線の先では、


「いや松尾さん、今日はBL選手権準優勝おめでとうございます!!こちらも嬉しい限りですよ。」ホッホ


「いやいやいや!!明石さんがスポンサーになってくれたからですよ!!こちらこそ感謝です!!」


「いやでも今日は結構人いましたよね!大丈夫でしたか?」


「いえいえぜーんぜんッ!気にしなかったですよ~!!」


と、こんな酔っ払いみたいな感じの会話で盛り上がっているようだ。

てか今さらって言ってたけど先生準優勝してたのマジで?あ、BL部門だったな・・・え、マジで?


「あ、これ松尾さんの準優勝賞金分の500万円です。松尾さん受け取らずに帰られてしまったから・・・」


と、亨さんは軽く500万円が入ったジュラルミンケースを松尾先生に手渡した。

いや、え、えぇぇぇぇ!!!!???

こんな現金手渡してるとこ初めて見たんですけど!!??


「・・・まぁ現金で賞金を渡すことも、ましてや表彰式の際に道に迷って式場に入れなかったことも、本来はないから珍しいものよ。」


「なんだ先生だっせ」


「し、仕方ないだろ・・・あそこは道がありすぎて分からないのだ・・・////」


そしてジュラルミンケースを松尾先生に手渡した次に亨さんは、今度は知人の方に方向をずらす。


「・・・君が飯田知人くんだね?娘から聞いたよ。いや、今回は残念だったね。」


・・・やっぱり知ってるよな、俺は一回戦で去ったこと。


「・・・すみません、せっかく出させていただいたのに一回戦敗退だなんて・・・」


「いやいや!!むしろこの大会で面白いモノが見れたよ!この大会で得たものはかなり大きいと思っているくらいさ。」


「そ、そうなんですか・・・?」


「うん・・・まぁ今日はもう遅いからここに泊まっていくといいよ。明日は確か創立記念日で学校休みだったろう?なぁ麗加?」


「確かそうだったよ。」


「知人くんの親御さんには連絡しておくから、今日はゆっくりしていってくれ。あ、松尾さんもよかったら。」


「え、良いんですかッ!?」


「あぁ、部屋は妻と一緒になるのだが・・・どうかな?」


「だ、大丈夫です!!あ、ありがとうございます!!(やったー!!ホテル代浮いたー!!)」←山梨県大月市で一人暮らし




松尾先生がお泊りではしゃぐ中、

知人の心の中は、しかしそれ以上にさわいでいたのだった。



(え、お泊りって・・・え?)


(あれ、ここってあの明石麗加の家だよな・・・そして泊っていってと言ってるのは麗加のお父さん・・・)


(てことは・・・つまり・・・!!??)




「(えぇぇぇぇぇえ!!!???)~~~~~~!!!!???」




とまぁ、こんな感じに動揺した知人であった。



「ところで知人くん、少しいいかな?」


亨さんはふと動揺しまくる知人を呼び止め、そして知人をリビングのテレビ台に誘導する。


「ははははいッ!!!なんでしょか!!!」




テレビにケーブルを繋げ終わって棚からコントローラを出すと、亨さんは一つ知人にこんな要求をしたのだった。





「ちょいとOREでの戦闘シーンを見せてほしいんだよ、やってくれないかな?」


「!!・・・・・へ?」





それは、またも唐突なものであった。




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