3話 これがeスポーツだ


「16秒07って・・・!!??」



常軌を逸した、目を疑うほどの記録が

薄い自分のiPhone7の画面に表示されていた。


「ま~こんなモンかな~・・・」


「西京はいつも通りだな。」




なんだよこんなモンって・・・

あんなにラグナロク倒したんだぞ・・・!?

そんな俺のタイムの3分の1でそんなこと言ってんのか・・・!!



「くッ・・・!!」



俺は、素直に悔しかった

この学校で一番だと思っていた分野で圧倒的な差を見せつけられた。

大好きなゲームで、見せつけられた。


だから、俺は素直に悔しかった。



「・・・君はプレイ中に腕が力むクセがある。それがこの差の大きな理由さ。力むと本来の手のおよそ半分のパフォーマンスしか出来ない。そこが大きな改善点。」


「えぇ・・・?」


「このようにeスポーツ部は一度プレイしたらそこで反省点を述べ、そして改善のためにもう一度プレイする。その作業のくりかえしだ。」


「な、なに・・・?」


「これがeスポーツ部、これがeスポーツだ。ここでのゲームはただの遊びじゃない、勝ち上がるための競技だ。eスポーツはゲームへの単純な興味に、技術と戦略を付随することが不可欠。」


「ッ・・・!!」


「ここを『ゲームして遊ぶためだけの空間』だと思っているのなら、この部には入部することをお勧めしない。いや、むしろそう思っているのなら・・・」


「ッ・・!!!」





――― 帰ってくれ ―――




「ッ!!!」

「おい、西京ッ・・・言い過ぎだッ・・」



バタンッ!!





俺は悔しさのあまり、勢いで部屋を後にした。


「あらッ」

「ッ!?」


部屋を出ると、そこにはeスポーツ部の部員だろうか、一人の女子生徒と行合わせに。

しかし今は悔しさが勝っていたので、振り切ってeスポーツ部の部室を後にした。







「西京・・・君があんなことを言うなんて珍しいな。・・・でも言い過ぎだ、反省しろ。」


「・・・まぁ、でも彼はまた戻ってくると思うよ~」


「・・・なぜそう思う?」




「・・・それはね、彼はが一目置いているプレイヤーだからさ。」




「ッ!!・・・そうなのか?」


「うん、あの名前は聞いたことあるんだ~」



ガチャッ・・・


「失礼します。」


「ん~?おぉ、うわさをすれば・・・だね~」






♢ ♢ ♢ ♢ ♢


俺はあれからダッシュで家に戻り

飯も食わずにそのまま自分の部屋へ

充電コードをスマホに指して、そしてずっとOREでラグナロクを狩りまくった。



――― これがeスポーツ部、これがeスポーツだ ―――



「クソッ・・・!!クソッ!」



――― ここでのゲームはただの遊びじゃない ―――



「クソッ、何なんだよッ・・・!!!!」




――― 帰ってくれ ―――



「ッ!!!!」






ただひたすらに画面をタップし続けて


夜が、明けるまで ―――







「お、おはようございます・・・・・」ドヨーン


「お、おはよう飯田・・・どうしたそのクマは?」


「ず、ずっとOREでラグナロクってました・・・」


「・・・やっぱり悔しかったか?昨日のスコアは。」


「・・・はい、かなりキましたよあれは・・・だからゲームしてました・・・」


ずっと一人プレイをしていたので、知人の手はまるでマシンが誤作動を起こした時のようなピクピク度だ。

午前中はスマホどころかペンもマシに持てないだろう。それほど両手は麻痺していた。


・・・しかし



「・・・午後の部活、俺また行ってもいいっすか?ちょっともう一回対戦したいんですけど。」


「ほう、勝算はあるのかい?」


「まぁ・・・昨日よりかは。」


「・・・よし分かった、放課後に待っているよ。」


「あ、ありがとうございます・・・」


「だったら放課後の対戦までにその麻痺った両手、何とかしてくるんだぞ?」


「はい、何とかします・・・―――



――― さとちゃん先生」ボソッ

「だからその名で呼ぶなッ!!/////」





そして日はいつも通りに過ぎ、時間はあっという間に放課後を迎える。

午前中では麻痺っていた知人の手だが、今は昨日と同じくらいまで動かせるところまで回復した。


「なぁぼっしー、昨日はマジお疲れ。」


「とうとうスマホ没収生活が始まっちまうのか・・・」カワイソーニ


「俺達がなぐさめてやるよ。ほら、帰りゲーセン寄ってこうぜ?」


片岡と松本は、またいつものようにゲーセンに誘ってくれる・・・

我ながら良い友を持ったものだ・・・グスン

しかし、今日は・・・ ―――


「・・・わりーな、ちょっと寄ってく場所があるんだ。明日埋め合わせするから先に帰っててくれ。」


「お、反省文の続きか~?」


「まぁ、そんなトコだな。」


「そっか~、ぼっしーご愁傷様。」

「ガンバ!」



「・・・あぁ!!」






そして、再びあの部室へと向かう・・・


「失礼します。」


「おぉ飯田来たか!では早速始めようか。」


「え、先生もやるんですか?」


「当たり前だ。私もスコア上げたいからな。」


・・・確かに昨日の先生のスコアは俺の2倍のタイムだったな・・・いいや言わんでおこう。


「さとちゃんの得意分野はギャルゲーなんだけどね~」


「へぇ~意外ですね。」

「さとちゃん言うな!!///」


「あ、ギャルゲーじゃなくてBLのh ―――

「さぁ始めようか!!!!」





そして結果は


神格のグランブルー(飯田知人);24秒21

かいじ(西京快司);15秒59

アルフィ@天翔ける剣ほすぃー!(松尾里音);1分21秒00



「クソッ、やっぱ届かねー・・・・!!」


「いや、でも昨日のタイムの半分じゃないか!!大きな進歩だぞ飯田!!」


いやだからあなたに褒められても・・・


「・・・ふ~ん、問題点は改善されてるみたいだね~。」


「おぉ、特にはどこら辺だ西京?」


「ん~?まぁ一番は力みがかなり無くなったことかな~?結構いいパフォーマンスが出来てたと思うよ。でも終盤になってくると今度は顔と画面が近づいてくるところがあるから、それを直してみるとさらにいいかもね~。」


「ほう、近すぎるとダメなのか?」


「そうだよ~。近くなると視野が狭くなるし、何せ目により多くの負担がかかりやすくなるんだ。そうすると目に疲労がたまりやすくなって思考が鈍ってくるんだよ。」


「そのような理由があったのか・・・で、私はどうだ西京?」


「ん~?さとちゃんはまず格ゲー向いてないと思うよ?」


「なッ・・・!!??」ガーン



西京快司こいつの話を聞いていると、段々とすごいという感情が沸き起こってくる。なぜ人の一プレイでそこまで分かるのか、なぜそこまで見ることが出来るのか。

ゲームでいいスコアを出すために、ここまで要素があるとは思わなかった。

しかしやっぱりスコアが上がると嬉しい。

そして何よりまだ向上の余地があるって思うと・・・ 




eスポーツって、何だか楽しい ―――






「なぁ先生、西京。」


「ん、なんだ?」

「?」






「俺、この部に入部します!!ゲームの世界を、もっと見てみたいです!!!」







「飯田・・・!!」

「がんばろーねー」


「よし、じゃあ早速もう一回戦やろうか!!」


「え~さとちゃんまだやるの~?」


「当たり前だ!!こうして新入部員が入ってやる気は十分なんだぞ!!『鉄は熱いうちに打て』だッ!!」


「いや先生、さすがに俺疲れました・・・」


「はぁ!?そんなのレッド〇ル飲んで翼を授かれ!!ほら、もう一回戦だ!!」






こうして俺・飯田知人は、高校生活で初めての部活に入部したのだった ―――




そして知人は同時に、この事実にも遭遇することになる・・・




ガタッ・・・


「失礼します、少し遅れました。」


この部活に所属する、二人目の部員・・・



「おぉ明石、今日は日直か?」

「れいちん遅いね~」


「・・・西京くん、その『れいちん』はやめてもらえないかしら?少し卑猥に感じるのだけれど・・・あれ、君は昨日の ―――


「えぇッ!!??お前、確か・・・!!!」





それは、誰もがうらやむ高嶺の花の存在

容姿端麗、学年主席の超お嬢様



明石麗加あかしれいかであることを ――――




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