第7話 次の日
【7】
──一体どういうことだ‥‥‥
宿屋のベッドの上に仰向けになっている俺は半ばパニックに陥っていた。
三ツ木彩奈は俺の幼馴染だ。俺にとってそれはもう疑いようのない事実だ。
だが、さっきのセフィアの言葉。
『アヤナとはこの国で三年前に登極した王の名前です──』
全く意味がわからなかった。
だが‥‥‥だがしかし、意味はわからないが俺にはほんのわずかだけ心当たりがあった。
彩奈には一番近くにいた俺でさえ把握されない一面がある。
──『別人格』──
あの『別人格』が何か関係しているとしたら‥‥‥
そこまで考えたがその先はどんなに考えようと想像の域を超えることはない。
どちらにしろ今の俺はその答えに辿り着くすべを持ち合わせていないのだ。
会ってみるしかないか、この国の王、アヤナに‥‥‥しかもあの後聞いた話だとこの国はこのままいくと中心部の陥落までにはもうあまり時間はないらしい。どうやら時は一刻を争うようだ。なんとかして王アヤナまで早く辿り着かなければ──
いつもとは違う感触のベッドに違和感を感じながらも、今日一日の壮大な出来事に疲れ果て、俺は眠りについた。
「頼む! 少しの間、俺と一緒に行動してくれないか?」
次の日の朝、俺はセフィアに向かって頭を下げていた。
年下の少女に全力で頭を下げる男子高校生、現実世界なら警察に補導されてもおかしくはない。当然、セフィアは驚いたような顔をしてこちらを見ている。
「昨日の話だが、この国の王アヤナはもしかしたら俺にとって大事な人かもしれない。そのことを俺自身確かめたい。
だが俺はこの世界の右も左もわからないし強くもない。だから今の俺は誰かを頼らなきゃならない状況なんだ。
ものすごく身勝手だってのもわかってる‥‥‥でも今の段階で頼めるのはセフィア、君しかいない。俺と一緒に行動してくれないか?」
セフィアは依然として驚いた表情を崩していない。だが、流れていた沈黙は割とすぐに、終わりを迎える。
「わ、私なんかでいいんすか?」
その返答に俺は目を見開く。
というのもその反応は俺の予想していたものではなかったからだ。正直なところ、ダメ元だった。
セフィアは今、旅をしていると言っている。きっとその旅には何かしらの目的があるのだろうし、彼女にとって異世界から来た男と一緒に行動したところで何もメリットがない。
だからこそ俺は本気で頼んだ。本心からの言葉を伝えて、断られたらそこで終わりだと自分で区切りのつけられるようにした。
その俺にとって彼女の反応は意外なものだった。
「‥‥‥こっちこそ、い、いいのか?」
「私は全然大丈夫です。それに爽真さん困っているようですし。困っている人を放っては置けません」
「で、でも、君自身の旅のこともあるだろうし‥‥‥」
「私の旅は急いでいませんから、多少の寄り道なら大丈夫ですよ」
「ほ、本当にいいのか?」
「はい! それでは爽真さん、しばらくの間よろしくお願いします」
そう言って微笑んだ彼女の天使のような顔を見て、俺は思わず泣きそうになってしまう。
「よろしく、セフィア」
俺は目の前の銀髪美少女に向かって深々と頭を下げた。
「それではまず簡単な魔法から始めますね」
セフィアは言った。
今後の最大目標として、この国の王であるアヤナという人物に会う、ということが俺の中では明確になった。
しかし王に会うということは国の中心部、つまり戦火の真っ只中に足を踏み入れなければならないということだ。俺は今、魔法も使えない、武器も使えない、いわゆる最弱の部類といってもおそらく過言ではない。
少しでも強くならなければアヤナにたどり着く前にこの身が無事でないことは容易に想像ができる。
ということで、セフィアが簡単な稽古をつけてくれることになった。
セフィア自身も難しい魔法は使えないらしいが、簡単な魔法程度なら教えてくれるそうだ。
「魔法ってのは簡単に覚えられるものなのか?」
「人それぞれですね。魔法というのは本人の想像を魔素によってこの世界に具現化するものです。本人の想像力とそれをうまく魔素によって具現化できるかどうかしだいです」
「へぇ〜なるほどな」
「それではまず、ステフの魔法から始めますか」
「ステフ? それはどういうタイプの魔法なんだ?」
「ステータスを見る魔法です。最初は自分のステータスを見ることしかできません。でも極めていけば他人の強さやモンスターの強さまで見ることもできるようになります」
「どうやるんだ?」
「詠唱するやり方と無詠唱でイメージするやり方があります。難しい魔法になればなるほど無詠唱は難しくなるんですが、ステフの魔法くらいなら詠唱してもしなくてもあまり難しさは変わりませんね」
「なるほど」
詠唱は正直言って抵抗がある。できるならば全ての魔法を無詠唱で行いたいな。
「無詠唱の場合はどうやるんだ?」
「無詠唱の場合はイメージが大切です。全ての魔法において言えることですが、イメージしたものを自分の身体の中心に溜まっている魔素と結びつける感覚を磨いてください」
俺はセフィアに言われたように自分の強さのイメージをし、それを身体の中にある魔素とやらに結びつけるよう集中する。
「‥‥‥何も起きない」
「誰だって最初はうまくいきませんよ」
そう言ってセフィアは微笑む。
「まぁでも、ステフの魔法なら一時間くらいで習得できますよ」
「本当か⁈」
「はい! 人それぞれ個人差はありますが誰でも二時間以内に習得できると言われています」
魔法ってそんな簡単に覚えられるものなのか?
俺は少し驚きながらも、未知の体験にやはりワクワクしながらもう一度ステフのイメージを始めた。
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