第6話 衝撃の事実
【6】
俺は簡素なレストランにいた。目の前には一度しか会ったことがないのに、その人がお金に困っていたらお金を貸してくれる超絶優しい銀髪美少女がいる。その美少女に対し俺は感謝で頭が上がらない。
「すまない。そして本当にありがとう」
「いえいえ、昼間助けてくれたお礼です」
そう言って彼女は天使のような笑みをこちらに向ける。
しかし、助けたと言っても昼間、この少女がガキに絡まれているところに出くわし、少しばかり声をかけただけだ。その対価が宿代とご飯代を建て替えることでは全く釣り合わない。そう思うとまた俺は頭を落とす。
「もしかしてなんですけど、向こうの世界から来た人ですか?」
不意に少女が俺に訪ねて来た。そのあっさりと発せられたフレーズに俺は驚きを隠せない。
「向こうの世界? 向こうの世界とはなんだ?」
「こちら側の世界ではない世界のことです。あめりか? とか、いぎりす? という名前の国があるらしいですよ」
耳を疑う。
アメリカ、イギリス、間違いなく俺の知っている単語、知っている国だ。そこがこちら側ではない世界? 向こうの世界と言ったか⁈
俺は椅子から立ち上がる。
「間違いない! それは俺の住んでいる世界の国だ! じゃあ、じゃあやはりここは異世界なのか⁈」
俺は思わず声を荒ぶらせる。
「お、落ち着いてください」
はっ、と気づくと店内の多くの人がこちら側を見ている。ずっと抱いていた疑問の真相が垣間見え、つい周りが見えなくなってしまった。冷静になって椅子に座り、もう一度少女に聞き返す。
「アメリカやイギリスは俺の住んでいる世界の国だ。ここはその世界とは別の世界なのか?」
「はい、ということはあなたはやはり向こうの世界から来た方なんですね?」
「理解に苦しむけど、どうやらそうらしいな。えっと‥‥‥いくつか質問させてもらっていいか?」
「いいですよ。私の知っている範囲でよければお答えします」
一体何から聞いていいものか‥‥‥
「まずここはどういう世界なんだ?」
何を聞いていいのかもわからず漠然とした質問をしてしまった。
「どういう世界と言われても‥‥‥えっと、ここは人間領にあるリデアル国。その南側の地域に位置するプラネという街です」
少女は戸惑いながらも説明を始めた。
「人間領? ということは人間が支配していない領地もあるのか?」
「はい、人間以外にもエルフやドワーフが所有している領地もあります。まあ、ここからはとても遠い場所ですけどね」
──エルフにドワーフ、異世界感MAXだな‥‥‥
「ちなみにドラゴンもいるのか?」
「はい、ドラゴンもいます。ドラゴンはどちらかというと種族というよりは怪物の部類に分類され、人間からは恐れられていますね‥‥‥」
やはり俺の見たドラゴンは幻覚なんかじゃなかったのか。しっかし異世界に飛ばされて一番最初に会った生物が人間から恐れられているドラゴンとは‥‥‥俺もついてないな。
「あ、そうだ。もしかしてこの世界に魔法とかってあるのか?」
ドラゴンに襲われた時に出現した青みがかったドーム状の壁は明らかにファンタジー系のゲームでよく見る魔法的な感じがした。
「魔法もありますよ。私は高度な魔法は使えませんが、それでも簡単なものでしたら」
そう言って少女は人差し指を一本立て、目を閉じた。次の瞬間、彼女の人差し指の二、三センチ上にロウソクの火くらいの火球が生まれた。
俺は信じられない現象に目を丸くする。
「そんなまじまじと見られると恥ずかしいです‥‥‥向こうの世界には魔法はないんですか?」
「残念ながら俺の知る限りそんなものは存在していなかったよ」
魔法に異種族、本当に俺は全く知らない世界に来てしまったのか。
今までにない新しいものとの出会いに俺は体をゾクゾクさせる。
そんな中で少女が恥ずかしそうに口を開いた。
「あ、あの‥‥‥」
「ん? どうした?」
「名前‥‥‥まだ聞いてませんでしたよね?‥‥‥」
「あ、ああ。そうだな。俺は沢渡爽真、一応、異世界からの来訪者ってことになるのかな。君の名前は?」
「私の名前はセフィアと言います」
「セフィアか、可愛い名前だな。よろしくな」
「はい!」
「それにしてもセフィアはこの街じゃあまり見ないような服装をしてるけど、どこか違うところから来たのか?」
「えっと、そうですね。今、旅をしていてこの街にも今日、着いたんです」
「へぇ、大変だな。それにしてもこのプラネって街は活気のある街だな」
「はい。リデアル国自体は五年ほど前から隣国からの侵攻を受けていてあまり良い状況ではないようですが、この街は国の中心からは離れてますしそれほど被害はないようですね」
「ここの国自体は大変な状況なのか?」
「そうみたいです。この国の西にあるロキランダルという大国がこの国の領地を求め攻め入ってるようです。この国は三年前に先の王が亡くなり新しい王が登極したのですが、王が変わっても苦しい状況は変わっていないようです」
「国自体は危ない状況ってことか、それにしてもセフィアはいろんなことを知ってるんだな」
「私を育ててくれた方が色々教えてくれたんです」
「ほぉ〜」
何か複雑な家庭の事情のようなものを感じるがここでは触れないでおくか。
「本当にありがとな。お金を貸してもらっただけじゃなく、この世界について色々教えてくれて」
「いえいえ、私も助けてもらったんで」
そう言って彼女は微笑む。
「あ、そうだ。最後に一つ」
「なんですか?」
「三ツ木彩奈と榊結衣という人を知らないか?」
俺がこの異世界にくる原因となった人物、そして一緒にこの世界に飛ばされて来たであろう俺の幼馴染。もしセフィアが知ってるのであればこんな幸運はない。
だが、彼女は俺の問いに対して唖然とした表情を示した。
「‥‥‥榊結衣という名前には心当たりはありませんが、アヤナという名前なら聞いたことがあります」
「本当か⁈ 知っているのか?」
セフィアは少しの間黙り込み、そして真剣な顔になってこちらを向き口を開いた。
「アヤナ‥‥‥それはこの国で三年前に登極した王の名前です──」
カチャン‥‥‥
フォークが机に落ちる冷ややかな音とともに、俺の思考回路が停止した──
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