第3話 サーバル
パークセントラルのど真ん中から少し外れた場所、ここに巡回バスの乗り場がある。
このバスというのは、パークセントラルからサバンナエリアのゲート、次いで森林エリアのゲート…という風に各エリアのゲートを結び、またパークセントラルに戻って来る、という環状運転を行っていて、パーク内を移動する際(セントラル→サバンナ→森林…という風に順に移動する場合)によく使う移動手段である。
(実際敬もこのルートで各エリアを一周したことがあるそうだ。各エリア全てとても広いため、全部のエリアを回るだけで数日かかるとかどうとか)
因みにだが、利便性ゆえの混雑が問題らしく、どう対処するかが課題の一つだそうだ。
__その巡回バスを待っている人たちの行列の中。カラカルと敬の姿がある。
………
敬のことをサーバルに紹介したい、カラカルは急にそう言い出した。
「え、別にいいけどさ…どうしたの急に」
「ただアンタのことをサーバルに紹介してあげたかっただけよ…なにか悪い?」
「んなわけあるか。むしろ顔見知りを増やしていくことは重要だろうし…」
「ふーん?」
………
『到着のバスは13時40分に発車するジャパリパーク循環線でございまーす。サバンナエリアゲート前、森林エリアゲート前、砂漠エリアゲート前の順に…』
バスが到着し、ドアが開いた直後から雪崩のように乗客がバスの車内へと押し寄せてゆく。その人の流れに乗るように敬とカラカルもバスに乗り込む。
幸い2人分の席が空いており、そこに2人並んで座ることに。
程なくして、これでもかと人を満載にしたバスはエンジンを唸らせパークセントラルを後にし、一路サバンナエリアの方向へと走り出す。
「へー、やっぱり自分で動かなくてもいいとラクねー…普通に歩くとかなり時間がかかるし…」
「…今日、俺が来るのに合わせてセントラルへ来てくれたよな?歩きで行ったのか?」
「そうだけど? フレンズは普段
「フレンズの体力恐ろしい」
『まもなく、サバンナエリアゲート前……』
ほとんどの人が各エリアごとにじっくり回るからだろうか、ほぼ全員がバスから降りる準備を始めている。ちなみに運賃は入場券とセット(飼育員などがフレンズと一緒に移動する場合などは特例で実質無料)で、特に出口で詰まるというわけでもないようだ。
――――サバンナエリア・ゲート付近――――
多くの人がゲートをくぐり各々自由に散策を始めている中、敬とカラカルは未だバス乗り場付近にいた。少し空いてから移動しようと敬が提案したのである。
「…やっと人が空いてきたな、そろそろ行くか」
「そうね、ようやく移動できるわ…」
………
「で、集合場所はどこにしてんの?」
ふと気になった質問。現代の人ならスマホやらなんやらで「いまどの辺ー?」とか「いまからここに集まろうな」といつでも連絡を取ることができる。
が、フレンズはそうはいかない。いまのところ携帯端末を使用するフレンズは確認されておらず、いまから連絡を取ることは実質不可能に近い。ということは、事前に打ち合わせなりすることになるのだが、どこに集合するのかは決めてあるのだろうか?
「もう、なにを言ってるの。ちゃんと決めてあるわよ」
「ああそうか、よかった。で、場所は?」
「小高い丘の側に生えてる大きな木の下。私らいつもそこで待ち合わせをしてるから迷ったりはしないわよ」
「………」
かなり曖昧な場所の表現。そりゃまあ、仕方がないっちゃ仕方がないのだが…。
それで本当に大丈夫なのか、という疑問が残るがカラカルを信じるとしよう。
………
サンドスターとはホントに不思議なものだ。セントラルからここに来るまで特に大きな壁かなにかがあったわけではないが気温や湿度が完璧にサバンナのそれを再現している。遅れて参加するハメになった講習会でも言ってたがまだ謎が多く残っているらしい。サンドスターの研究は今こうしてる間にも進んでいるとかいないとか。
「…今度研究員の方々に挨拶して回らないとな。知り合い増やしていかなきゃ」
「アンタ急にどうしたのよ」
「なんでもないです」
ゲートから歩いてだいたい20分ぐらい。
小高い丘が見えてきた。カラカルがいう待ち合わせの場所はこの近くらしい。でもその「大きな木」、どれのことだ?
ほぼ初見の敬からすればあてはまる木なんて無数にあるように見える。
「あ、あそこね」
カラカルがある一点を指さす。なるほど、木の下に何者かがいる。遠くからなのでよく見えないが、恐らく特徴的なのは大きな耳、だろうか?
「ほら、さっさと行くわよ」
いきなり腕を掴まれ、その何者かが居る場所へと引っ張られてゆく。
端から見ればアニマルガールに引っ張られてゆくのが羨ましいだのなんだの言われてもしょうがない光景かもしれないが引っ張られてるこっちは普通に力が強くて大変。
「あのーもうちょっと力緩めてくれませんかね」
「アンタが朝遅刻したせいでこっちは迷惑被ったんだからこのぐらい我慢なさい」
「………」
「サーバルー! 遅くなったわね…」
「カラカルだー! このくらい大丈夫だよー」
なんと言っても特徴的な大きな耳が生えてる、黄色い髪のフレンズ。
この子がカラカルがサーバルと呼んでた……
「紹介するわ。私の親友でもあるサーバルよ。覚えてあげて」
「親友だなんて…。 はじめまして!私はサーバルだよ!」
カラカルに親友と言われて少々顔を赤らめたが、すぐ元に戻り、
「あなたがタカシね? これからはよろしくね!」
幼い子のような笑顔でそう続けてきた。
めっちゃ可愛いんだけど。
ヤバい、こんなところで動揺してどうする。
ほら今度は俺から自己紹介…
「あ、俺の名前もう知ってたんだね…」
「ついさっきカラカルから聞いたからねー」
「Oh …まあ、知っての通り、俺は井藤敬。カラカル通じて会う機会がありそうだし、よろしくな」
セーフ。
「…やるじゃん。私と会ったときの自己紹介一発目はひどい有様だったけど今回はちゃんと言えたわね」
「おま、ちょ、それを言うなよ…」
「あははは、もう仲がいいんだね!」
なんだかんだ、サーバルとカラカルとは打ち解けることができて個人的に初日から上手く行けた…と思う。
これが上手く行ってるのかどうかは意見が分かれると思うけど。
飼育員生活初日はこうして過ぎていくのであった。
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