第2話 カラカル

 ――幕間――

「あー、カラカルだー!」

「サーバルじゃないの、どうしたの」

「今日どっちも新しい飼育員さんを迎えるでしょ?だからどんな子だったのか紹介しようと思って!」

「そういうことね。こっちの新人はどうやら遅刻するって聞いたけど」

「残念… で、私のとこの新しい飼育員さんは……」


 菜々ちゃんってヒトだったよ!可愛かったなあ~




 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「アンタ…えらい遅かったわね…」

 出会って早々。カラカルと呼ばれた相手から発せられた言葉は怒りというより呆れの感情がこもってる。

 …ように敬は感じ取った。




「それじゃ、まずは飼育員生活初日、頑張って下さいねー」

 と捨て台詞を残しミライはその場をあとにしてしまった。


 ……それでもガイドさんですか。

 ……ああそうか、ガイドと言ってもお客のガイドがメインか。


 いやそうじゃない。そこじゃない。

 …とりあえず自己紹介からしなければ。


「あー、ど、どうも初めまして井藤 敬です。まあ気軽にタカシとでも呼んで下さい、こ、これからよろしく……」

 あかん、謎の緊張が。この出だしは最悪だ。

「……アンタ大丈夫?なにを緊張してんのよ、こんなヒトが私の飼育員になるとか恥ずかしいわね…」

 ごもっともです。ごめんなさい。

「アンタが知ってる通り、私はカラカル。ま、よろしくね」


 滑り出しは最悪レベルにまでひどく、これからやっていけるのか不安でしかないタカシと緊張しっぱなしで頼りなさそうな飼育員相手に不安なカラカル。もちろんしばらくの沈黙というなんとも言えない空気が流れる。

 その間に敬は別に敬語じゃいくていいよな、という比較的どうでもいいことを考えていたのであるがそれはまた別のお話。


 が、その空気を壊すような腹の虫一発。

 それが敬から発せられたものなのかカラカルから発せられたものなのか。

 時刻は丁度お昼時。パーク内の各レストランや喫茶店は一番の賑わいを見せる時間だ。丁度いい、ここでお昼と行こうか、と考える。


「…時間も時間だし、どっか飯食べに行くか?」

「ま、いいけど。遅刻の罰として奢ってね?」

「………」

 この際親睦を深められたらなんでもいいと思い始めた敬である。



 ………



 立ち寄ったレストランはパーク内で最も評判がいいと言われる、セントラル…の中でもパークの正門付近に堂々と店を構える店だった。時間がお昼頃ということもあってか、店内は大変な賑わいを見せていた。なんとか2人分の席を確保して、注文を決める。

「カラカルは何が食べたい?」

「私は別になんでも…あ、これ美味しそう」

 と、カラカルが指さしたのは唐揚げ定食だった。こんなところまで来て定食か、とか女の子だけど案外食い意地でもあるのか、とかあまりよろしくない考えが脳内を巡ってしまう。が、

「…唐揚げ定食?ちょっと意外だったかな」

 …とオブラートに包んだ上で声に出してしまった。

「なによ、ダメなわけ?」

 すんません。

「そんなアホな。唐揚げ定食な、分かった。どうせなら俺もそれにしようかな。 …あ、すみませーん!」

 敬が店員を呼び止め、注文を済ました。


「アンタ、多少は緊張がほぐれたんじゃないの?」

 唐突にカラカルから声を掛けられちょっとビックリする。が、

「…そうかもな」

 と苦笑いして応えた。

 今思えば今日初めてカラカルの笑った顔を見たかもしれない。微笑だが。

 なによりこのお食事会(?)は仲良くなることが敬の中では目的なのだ。仲良くなれるんだったらそれだけで十分。相手に対する緊張がほぐれたと言うことはそれは大きな一歩ではないだろうか。


 …その時である。

 通路をオレンジジュースをコップに溢れんばかりに注いだ子どもが歩いてきた。その子どもが敬らが座ってる席のすぐそばまでやってきたとき、別方向から猛スピードで別の子どもがよそ見しながら走ってくる。

 あー、これはあの二人がぶつかって最悪自分にオレンジジュースが掛かるな、と察したがもう遅かった。





 …ひどい有様である。

 ズボンに大きなシミが付いてしまった。いや、ズボンだけで助かったのが幸いなのか?

 いやそもそも助かってない。


 というよりカラカルがすごかった。子ども2人や店員を相手にしてよく動いている。フレンズってコミュ力とか高いのだろうか。敬はそれを呆然と眺める事しか出来なかった。

「ほらアンタ、大丈夫?」

 そう言ってカラカルはおしぼりを出す。複雑な心境だった敬はそれを黙って受け取った。



 ………



 程なくして運び込まれた食事は美味しそうな匂いを漂わせている。黄金色をした、なんとも美味しそうな唐揚げである。


「美味しいわね」


 気が付くとカラカルはもう食べ始めていた。食事中のカラカルの表情はホントに「美味しいもの食べてます」と言わんばかりの表情で、今日イチの笑顔だった。その顔を見ると、こっちまでつい笑顔になりそうな、そんな顔。

 いつか俺と親しくなれたら…俺にもこんな表情を見せてくれるのかな?

 思考がだんだんと複雑化していく中、それを振り払うように目の前に置かれている唐揚げに箸を伸ばす。



 ………



「ごちそうさま、美味しかったわ」

「せやな、また来るのもアリかもしれん…さて、このあとどうするかな」

 レストランから出た2人は、このあとどうするかを迷っていた。

 一緒にフレンズと居られるって言っても、いざなにかしようとなると何も思い浮かばない。さてどうしたものか……


 どこか旅行に行く?いやいや、時間的に今からじゃ遅すぎる。

 もしかしたらカラカルだけが知ってる場所があるかもしれないからそこに連れてって貰うとか?いやいや、なんか違うよな。


 1人であーでもないこーでもない唸ってると、何かを思い出したかのようにカラカルが口を開く。





「…そういえば、アンタを私の親友に紹介してあげたいんだけど」






 ____私の親友、サーバルに。

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