もう一人の新人飼育員のお話(けものフレンズ二次創作)

Green Liner

第1話 新しい職場と出会い

「本当に申し訳ありませんッ!」


 __冒頭から平謝りをしてるのは今日からジャパリパークで飼育員となる予定の井藤 敬(イトウ タカシ)である。実はこの日、パークには2人の新たな飼育員を迎えることになっていたのだが、あろうことか初日から敬は遅刻をしてしまったのだ。ちなみに、『もう一人の新たな飼育員』は時間通りに到着したようである。

 なにがあったのか、それは数時間前に遡る……




 敬の家は広大なジャパリパークの一角にある『都市エリア』の中心地に建つマンション――のすぐ向かいにある一軒家で、そこで両親と3人暮らしをしている。

 父がジャパリパークで飼育員をしているということもあり、敬は昔からジャパリパークの飼育員になることを望んでいた。


 そして、筆記試験やら面接やらを乗り越え、今日がその記念すべき飼育員生活初日という訳だったのだが……



「架線破断の影響により線内全線で運転を見合わせております!運転再開のメドは……」



 パークの敷地は本当に広大である。そのため、鉄道線やら航空便やら様々な交通手段が用意されている。また、パークの事務室や本部などは正門付近に集約されており、初日の今日は正門付近に集合という形を取っていた。

 また、正門付近から都市部までは鉄道で行ける程度の距離(裏を返せばそれだけ距離があるということ)なので、敬は定期券を購入し電車通勤という方法で本部へ行こうとしていた。

 ……のだが。



 その電車がどうやら架線破断…?(実はなんで電車が止まっていたのかは敬は詳しく知らない)の影響で動いておらず、家を出て都市部の中心にある駅で足止めを喰らっていた。このままでは遅刻してしまう。

 敬は「早く動いてくれ」と脳内で何回も念じていた。



 …が、それも虚しく運転再開は10時となってしまった。正門付近集合が朝の9時となっていたため、既に1時間以上の遅刻は確定してしまい、心の中で「どうすりゃいいんだよ」と嘆いていたのは当然のことだろう。



 ようやくやって来た電車に乗りこむ。しばらく電車が動いてなかったせいで車内がとんでもないぐらいに混んでいたが、敬は頑張って様々な人と連絡を取っていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 午前10時半ごろ。ようやく正門付近に姿を現したとある人はなんだがヘトヘトになっているように見えた。きっとさっきまで電車が動いていなかった影響で様々な混乱に巻き込まれたのだろう。新飼育員1日目からとんだ災難でしたね、とミライは思った。

「初めまして敬さん、ようこそジャパリパー……」

「初日から遅刻本当に申し訳ありませんッ!」

「ええっと……」

 なんだ、威勢良く謝る気力は残ってるんじゃないかと思ってしまったミライであった。

「とりあえず、軽く講習を行うことになっているので、ちょっと移動しましょうか」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 敬はガイド(ミライ)さんからさまざまな講習を受けた。講習と言っても、まずは基礎的なところから。例えば、各エリアごとに気候区分などが違うことやフレンズについての基礎知識。そんなの知ってるわ、というところも多々あったが変に突っかかると初日から変な人呼ばわりされかねないので黙って聞く。

 聞いていくうちに、話はちょっとずつ難しい方向に進んでいく。パーク内独自の決まり事や、詳しい業務内容などである。


 …話を聞く限りだと、飼育員一人あたり通常一人か二人(単位が人でいいのかは定かでは無い)のフレンズを担当するようだ。飼育員と言っても普通の動物園のようなお世話をするのでは無い。相手は人の見た目して意思疎通も簡単にできる。

 ということなので、飼育員と言いながら実際やってることは一緒におしゃべりしながら散歩だの食事だの、ということも多いのだそうで。ただもちろん責任も大きいのだが。

 …と、講習(というよりただの解説)が終わったらしい。

「ふー、同じ説明を2回もするのは疲れますね…」

「本当に申し訳ないです」

「…えーと、次回からは気を付けて下さいね…と言っても電車の遅れは想定外でしょうし…」


 その『2回説明する』というワードから、もう一人の新しい飼育員がいて、その人ともいつか仲良くなってみたいな、と思っていた敬に、

「さて、まずは本部に挨拶に行きましょうか」

 とミライが呼びかけた。




「雰囲気がいいですね」

 本部の人たちと一通り挨拶を済ませ、敬が最初に放った言葉はこれだった。

 本部に入った途端に様々な人から歓迎され、また遅刻をイジられ、また頑張れよと励まされ……

 てっきり「なに初日から遅刻してるんだ!」的な怒号が飛んでくるのかと思って身構えてた敬だが、なんだが拍子抜けしたような声で言う。と同時に、そこら辺の社畜使い倒しな会社とはちょっと違うのだな、とも思ってしまう。

「でしょう? みんな明るくて良い場所だと私は思います」

「ええ、本当に…」

「さ、それでは…お待ちかねのあなたが担当となるフレンズさんに会いに行きましょう!」



 再び正門付近――今度は正門くぐってすぐの大きな広場的な所にやってきた。いよいよ俺が担当するフレンズと会えるんだ、と心底わくわくしている敬。どうやら担当するフレンズはわざわざこの辺りで待ってくれているらしい。

 ……こりゃ挨拶してすぐ遅刻の謝罪もしなきゃな。


「はい、あそこにいるのがあなたの担当となる…」


 俺が担当する子は。


「…カラカルさん、です」

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