第13話
「ンだよそれ!!」
「さすがに……、ちょっとひどいね」
私、坪井さんに新藤兄弟。三日目にしてすでにいつものメンバーになりつつある私たちは、今日も今日とて食堂で同じ釜の飯をつついていた。坪井さんは自家製のお弁当だけどね。
昨日の練習はどうだった? と興味津々で聞いてきた二人に天王寺さんのことを伝えてみれば返ってきたのがこの台詞。まあ、気持ちは分かる。
「でっしょぉ? しかも最終的に愛菜ピーさん達帰ってこなかったし……」
「たっちゃんさんが大丈夫だから。とは仰ってましたけど、心配ですね……」
「それ、どっかにちゃんと抗議したほうが良いんじゃねえのか?」
「どうだろう。これが初めてじゃないんでしょ? ていうことは、すでに手を打って何もしてもらってないのか、それとも打てない理由があるのかもしれないよ。どちらにせよ、事情に詳しくない僕らが勝手に動くわけにはいかないよ」
いますぐにでもどこかへ行ってしまいそうなほど怒る清志くんを正志くんが押しとどめる。
「わたしもそう思います。勝手に行動すればむしろ先輩方にご迷惑になるかと」
「うぅん……」
浮き上がっていた腰をどっかと降ろす清志くんの顔には、ありありと不満です。と書いてあった。
「たっちゃんさんと課長さんがこのことについては動いているんだよね? じゃあ、僕らは結果を待つほうが良いと思うよ。それより、」
「それより?」
「僕らは僕らが出来ることをするべきだよ」
「なんだよ、俺らに出来ることって」
三人の視線を受けて、正志くんはにっこりと微笑んで、
「ちゃんとサークル活動に出て、あそこが良いところだって他の新入生にアピールすることだよ」
そう言い切った。
三限の講義に向かうため、構内を四人で歩いていれば隣の清志くんが浮かない顔をしていた。
「どうしたのさ、そんな顔して」
「え? あー、いや……」
「ああ、そういうの良いから。面倒くさいからちゃっちゃと言うか、それかその顔止めるかしてくれれば」
「…………この野郎」
若干顔を引きつらせていたけれど、彼は観念するかのようにため息をつく。おい、今小声でこいつ本当に馬鹿だって言ったな?
「いや、なんつーか、さっきの件だけどさ。正志はいつも冷静に判断出来るのにな、って」
「ああ。……まあ、でもそれがあんたの味なんじゃないの?」
「そんな簡単に言うなよ」
「簡単に言うわよ、他人なんだから」
「…………」
「山坂さんの意見に僕も賛成かなぁ、なんというか、うん、兄貴が先に立ち上がってくれるから僕はゆっくり見ることが出来るわけで。僕からすればそうやって先に動ける兄貴が羨ましいよ」
黙り込んでしまった清志くん代わりに、正志くんが会話を続けていく。
「そ、そうですよ! お二人は兄弟なのですから、清志くんが正志くんをカバーして、正志くんが清志くんをカバーする! 得手不得手をお互いが支え合うことでいつか一つに!!」
なんだろう。坪井さんの言っていることはどうしてかどこか違う意味にも聞こえてくる。
「ほら。出会って少しの私と坪井さんもこういってんだからそうなんじゃないの? まあ、それでも気にするようなら勝手に変えれば良いんだろうけど」
「どうしてお前はそう適当なんだよ……」
「え? 普通に今のあんたが好きだから変わる必要ないしなー、と思ってるからだけど?」
「…………」
「ふっ、この小僧照れておるわ」
「照れてねえよ!?」
「ごめんね、そういう意味じゃないの……」
「止めろ!? 俺がフラれたみたいにするのはッ!!」
「二人ともー、早くしないと講義に遅れるよー」
清志くんには悪いが、真っ赤になって叫ぶ彼を私たち三人は笑いながら満腹から来る眠気という名の悪魔が襲い来る三限へと向かうのでした。
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