第三話 「あたしがついてるから」
―01―
真陽瑠はもともと体力があるほうではありません。学校にたどり着いた時には、ぜーぜーと肩で息をしていました。
一休みしたいところでしたが、のんびりしてはいられません。
正門こそ閉まっていましたが、ロープが一本張られただけの職員用駐車場から敷地内に入ることは容易でした。
さっそく光莉を見つけださなくては……。
……とはいえ、どこにいるのでしょうか?
いっそ、光莉に連絡をして合流――――いや、それはダメです。
『わ、忘れ物をとりに来ただけですが!』――とかなんとか、きっとはぐらかされてしまうでしょう。
彼女がどんな目的でここにいて、なにをしているのか……その現場を押さえたいところです。
「とりあえず、どっかから
最初は望み薄ながらも、正面玄関から試すことにしました。結果はまあ予想どおり、きちんと施錠済みでした。
「ここ以外だと、体育館との渡り廊下や……あと、たしか他にも入り口が――」
そうやって、いくつかまわってみたものの、どこもかしこも施錠済み。
「えぇ、なんでよ? 怪談ちゃん、校内にいるんじゃないの……?」
どこからか入ったのなら、その場所の鍵は開いているはず――と真陽瑠は思い込んでいます。
……が、そもそも、その考えが間違いです。防犯上、入ってすぐ内側から施錠することだってありえるのですから。
彼女は最後に行き着いた東校舎の勝手口の前で、しばし考え込みました。
「……って言うか、あたしって、はたから見たらまるで泥棒じゃん……」
どうやら気づいたようです。しかし、ここである妙案がよぎりました。
「そうだ! 泥棒っていえば、鍵なしで鍵をあける方法ってあったよね」
参考までに、ピッキングというやつですが……。
「あれって、あたしにもできるかな?」
出た……残念な子、特有の発想です。
さっそく携帯で検索。今のご時勢、真陽瑠みたいなおバカでも手軽に情報を入手する手段があるのは、果たして良いことなのか……。
「えーと……『ヘアピンで可能』――って、マジで!」
……ただ、情報の真偽を見極めるには、やはり一定水準の知識が求められるのです。残念ながら、この場にはそれを彼女に諭す人間はいません。
真陽瑠はポーチから予備のヘアピンを取り出すと、サイトに載っていた投げやりな解説に従い開錠を試みるのでした。
――三年後。
などと、テロップが入りかねないくらい、無謀な挑戦でした。
しかしです……たとえば、真陽瑠はご覧のように、おつむに関しては大変残念な娘ですが、人間には時折そういった部分の埋め合わせが、予期せぬ形でもたらされるケースがあります。
鍵穴を突っつきはじめてしばらくし……何の実感もわかないまま、ヘアピンを適当にひねってみた時でした。
カチャン。
「へ……?」
鍵穴からそっけなく鳴り響いた音が、ドア内部で起きたある変化を知らせてきました。
真陽瑠が半信半疑でドアノブを回してみると――。
「――お! おお! やったよぉ!」
……なんと、解錠に成功しているではありませんか……!
「すごい! こんなんでいいの!? ちょー簡単だったんだけど! それか、あたしが天才なだけ!?」
奇跡……あるいは、当人が言うように天が与えた才能なのかもしれません。
彼女は大喜びで、その場でくるくる回って小躍りしてコケた後、腰をさすりながら校舎の中へと入っていきました。
倖田真陽瑠――16歳。
特技、ピッキング。および、それを利用した不法侵入……。
校内は暗く静まり返り、真陽瑠は片手に靴、もう片手には照明代わりの携帯を持って廊下を進みました。
最初に向かったのは光莉のクラスでした。何も手がかりがないので行ってみたのですが、残念ながらはずれでした。
「片っ端から探すしかないか……」
光莉とのオリエンテーションの時のように、各教室をのぞきながら移動します。
「……怖くないのかな……怪談ちゃん……」
そうつぶやいたのは、ハイテンションが継続していた中で忘れていた、夜の学校に一人という状況からもたらされるごくふつうの感覚――『恐怖心』を、彼女自身が自覚しはじめていたからにほかなりませんでした。
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