―03―
次の日は、一時間目から移動教室でした。
真弥が待っていると、光莉は今日もギリギリで教室に入ってきました。
「おはよ。おれも今来たとこ。早く移動しないと遅刻だぞ」
白々しく言って、憮然とする光莉と一緒に理科室へ向かいます。
「昨日は手伝えなくてごめんな。真陽瑠は役に立った?」
「はい……意外とふつうに手伝ってくれました」
意外とふつう……光莉の中で、真陽瑠はどの程度に見積もられていたことやら。
「まだ手伝うことってあるの?」
「昨日で、ほぼ終わりました」
「なら、今日の放課後は真陽瑠と学校まわるわけ?」
「それは……――」
気はすすみませんでした。しかし、昨日の手伝いの最中、真陽瑠が久の前でそれを言ってしまったのです。久はうれしそうに『お願いしますね』と笑っていました。
「――……そうなると思います」
「そっか! おれが言うのもなんだけど、あいつも悪いやつじゃないから、うざいだろうけど、ちょっと様子見てやってくれないかな?」
「まあ……交友下手なのはわたしの問題なので。それに、多分、今だけでしょうし」
「どういうこと?」
「転校は今までも何度かありました。新しい環境では、最初はものめずらしさで近づいてくる人もいますが……わたしなんて実態はただの根暗で変な女ですから、そのうち飽きられて閑古鳥になるのが往年のパターンです。動物園のパンダと一緒です」
パンダという、超人気アニマルに例えるのも、これまたですが……。
「真陽瑠もどうせ、そんなミーハーの一人だろって?」
「……悪く言うわけじゃありません。ごくふつうの反応ですから。わたしも悲観してません。逆に気兼ねなく過ごせますし」
「なるほどね。おれもそういう一匹狼の気持はわかるよ。そっちの場合、一匹パンダか」
「一匹パンダって……」
「でも、真陽瑠はさ、ふつうじゃないから。ま、覚悟しといたほうがいいかもな」
たしかに、ちょっとしつこそうかな……と思いました。
それにしても、真弥がまるで自分のことを見透かしているかのような言い方をするのが、光莉にはいささか不愉快でした。
(……なにも、わかるわけないのに……)
ほどなく、階段を上って初日に騒ぎを起こしたあの階段の踊り場を抜け、目的の理科室に到着します。
教室入りする直前、真弥には光莉が一瞬、社会科資料室の方を気にかけたように見えました。
昼休み――。
授業が終わるのと同時に、光莉はバッグからお弁当を取り出し席を立ちました。
「今日もカウンセリング室?」
「はい……最後の
意図するところはわかりました。カウンセリング室の開業は明日。光莉が気兼ねなくランチを食べられるのは、下手をすると今日が最後なのです。
「でも、晩餐じゃないよな?」
「
「ああ、ごめん……。それでさ、真陽瑠なんだけど――」
「すみませんが、昨日と同じ感じで、対応をお願いします」
そう言って、光莉は教室から出て行ってしまいました。
このままだと、現地で驚くことになるでしょうが、まあ……仕方ありません。
「え……!?」
カウンセリング室のドアを開けた光莉が見たのは、来客用のソファーに座って久と談話している真陽瑠でした。
「あ、きたきた! いやぁ、先生の顔見ようと思って通りすがりにふらっと寄ったんだけど、そしたら光莉ちゃんここでお昼食べてるって聞いたもんだから、あたしもお邪魔させてもらおうかなって思って!」
真陽瑠と対面の席の久もにこりと微笑み、「食事は人が多いと楽しいですしね」などと言ってます。
(ク……双子、ここにきて、結託か……!)
ショッキングな出来事でしたが、友人まで引き連れて完全制圧などという状況でないのは、せめてもの救いでした。
……この際は仕方ありません。テーブルを囲んで四方向に配置されているソファーの一つに腰をおろしました。
そして、朝作ってきたお弁当の蓋をあけるのと同時に、真陽瑠が宣言します。
「おかず交換会!」
「……はい?」
「うちの玉子焼き、すっごくおいしい! これ光莉ちゃんにあげる! はい!」
「は、はあ……どうも……」
「で、代わりにこのウインナーちょうだい!」
……と、光莉の弁当から有無を言わさず一品拝借し、ダイレクトに自分の口に運びます。
「あ……」
ウインナー(チーズIN)は光莉の好物でした。
それを知っている久は、唖然と固まる光莉を見て笑いをこらえるのでした。
放課後になりました。
光莉はなかばあきらめたように真陽瑠の登場を待ち、それから女子二人で怪談スポット巡り――もとい、校内オリエンテーションへと出かけていきました。
さて、真弥ですが、
「えー、今日も一緒に来ないのー?」
「ストッパーが……」
……などと愚痴る二人とは別行動を取り――なぜか、三階のカウンセリング室へと向かっていました。
理由については、実は当人もよくわかっていません。
今日も昼におしかけていったし――真陽瑠が、久にまで迷惑をかけてないだろうかと心配になったのがきっかけでしたが、それだけでは動機として不十分に思えました。
それでも、今現在、自分がゆいいつ認識できている『理由』をよりどころにして、彼はカウンセリング室のドアをノックしました。
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