―02―
昼休みになると、光莉は宣言どおりカウンセリング室に行ってしまい、彼女を誘いにきた真陽瑠はくやしがって真弥に八つ当たりしました。
その次の休み時間は……光莉は机にふせて寝ていました。
(ありゃ……自閉モードになっちゃった……)
そして、この日の最後の授業は体育。
「体育は2クラス合同でさ、今日は男子が陸上で、女子は水泳」
「そうなんですか。……じゃあ、保健室に行ってきます」
……徹底した子でした。
こうして一日が終わり、放課後になると、息つく間もなく真陽瑠が飛んできました。
全速力で走り込んできて、入り口の前でスリップしてコケた彼女は、腰をさすりながら声高らかに言いました。
「さあ、心霊スポット巡りに行こう!」
「え……なんでそんな話に……」
自分が見積もっていた覚悟のワンランク上のアタックを受け、光莉は当惑しました。
「もちろんメインはオリエンテーションだけど、けっこう怪談ネタ仕入れられたから、ついでにまわろうかなって。……あれ? うれしくない?」
真陽瑠は、瞳を輝かせながらクルクル小躍りしてよろこぶ光莉を想像していただけに、この反応はいささか肩透かしでした。
「そういう話、知りたいとは言いましたけど、ぜひとも現場に行きたいわけではないので……」
不思議そうな顔の真陽瑠でしたが、真弥は納得した様子です。
「実際に行くのは刺激が強いってことだろ? 怖い話は好きなのに、お化け屋敷とかはダメってやついるじゃん」
「……まあ、そんな感じだと思ってもらえれば……」
あまんじて否定はしませんでした。その後、今度は気まずそうに視線をそらし、
「……で、お手数かけていただいたところで申し訳ないんですが、今日はちょっと別の用事がありまして……」
「別の用事?」
「生活指導から呼び出しくらったとか? また校内で例の除菌スプレーを――」
「違います! カウンセリング室の開業準備の手伝いが――」
そこで、言葉を止めます。
真弥には、(しまった……)という、光莉の心の声が聞こえました。
結果は、火を見るより明らかでした。
「カウンセリング室の開業準備!? それ、あたしも手伝う!」
「うあ……その、お気持ちは、ありがたいですが……」
全身から「ご遠慮ねがいます!」の雰囲気をかもす光莉でしたが、
「手伝わせてあげれば?」
真弥までもが、真陽瑠を援護するようなことを言うではありませんか。
「で、でも……」
「まあまあ。こいつ、意外とおしゃれ空間つくるセンスあるんだぜ。人手も多いに越したことないだろうし、こき使ってやりなよ」
光莉は一瞬、物言いたげな視線を送りましたが、あきらめたのか、しぶしぶ承諾しました。
「あー、ちなみにおれは今日バイトがあるんだ。悪いけど真陽瑠と二人で頼むよ」
「え……」
光莉がショックを受けたように見えて、真弥は意外でした。
まあ、おおかた真陽瑠のストッパー的な役割だと認識されていて、居ないと色々と面倒だとか……そんなところだとは思いましたが。
「……す……ストッパーが……」
「あー……口に出しちゃうかぁ……」
夜、真弥がバイトを終えて家に帰ると、真陽瑠はパジャマ代わりのTシャツ姿で居間のソファーに寝転がり、テレビを見ながら片手間で携帯をいじっていました。
「手伝いどうだった? 迷惑かけなかったか?」
「迷惑どころか、大活躍だったよ! 怪談ちゃんパパも、よろこんでたし」
肉親までも変なアダ名がついてしまいました。真弥はそのネーミングセンスに引きましたが、もとをたどれば彼の功罪です。
「お礼に、コーヒーとマカロン出してもらったんだ! で、ちょうどいいからその時に友達から聞いた怪談話したんだけど、怪談ちゃん、けっこー、真剣に聞いてくれてさ――」
真陽瑠はひとしきりしゃべりとおし、その間、真弥は彼女の話をおかずに夕食を食べ終えました。
「そういや、準備って言うけど、開業ってたしかもう少し先じゃなかったか?」
「なんかね、予約殺到らしくて、予定より前倒しで明後日から開くことになったんだって」
「へえ……人気なんだなぁ」
……どういうわけか、なんとも釈然としない気分になりました。
ただ、彼にはそれより思慮すべきことがありました。この分だと、光莉の憩いのカフェテリアは、早々になくなってしまうのです。
今日のところは真陽瑠に黙っていましたが、そういう事情であれば、こちらも予定を前倒ししなくては。
「なあ、明日も怪談ちゃん、昼飯に誘うわけ?」
「そうそう! 明日こそ一緒にランチしなきゃね。……えっと、『光莉ちゃん、明日の昼だけど』――と」
そう言って、真陽瑠はランカでメッセージを打ち始めました。
ふと、呼び方が『呉ヶ野さん』から、『光莉ちゃん』になっていることに気がつきました。
(おー、今日で意外と進展したんだな)
――などと、ほほえましく思った矢先、
「あは、『眠いから、もう寝ます』だって。まだ九時なのに、小学生みたいでかわいい!」
「あっ……」
まだ、けっこう……温度差ありそうです。
この状況で本人の承諾なくバラすのもはばかられますが、仕方ありません。
「その昼飯の件だけど……実は怪談ちゃん、今日はカウンセリング室で食べたんだよ」
「ええ! なんで、教えてくれなかったの!?」
「おまえ、友達連れて速攻で突入するだろ? あいつ、人見知りだから、ちょっと気をつかった方がいいと思うんだ。たとえば、最初はおれたちだけで……とかさ」
真弥としては、なんだかんだで、二人の歯車を噛み合わせてやりたいところなのです。
「そういうことかぁ……。でも、それなら大丈夫! あたしも人見知りなとこあるから、その辺の気持ちわかるし!」
……まず、人見知りの意味、わかってるのでしょうか?
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