―08―

「「怖い話?」」


 二人は顔を見合わせます。この娘も、また唐突なことです。

 さすがの真陽瑠も困惑したか、こめかみに人差し指を当てながら尋ねました。

「それって幽霊とか出てくる……『学校の怪談』みたいな?」

「まあ……そういう感じのです」

 そうなれば、真陽瑠が語ることは一つでした。

「なら……最近だと、あれだね。うちの学校ってさ、春に――」


「――真陽瑠」


 空気の読めない真陽瑠に、空気を読ませるだけの念がこもっていました。

「……ううん。なんでもない。あたし、ちょっとそういうの知らないから友達に聞いてみるよ。うちの学校ってけっこう古いからさ、いろいろあると思うんだ!」 

 いまだ旬なあの話題をはぐらかし、真陽瑠は笑います。

 光莉は、そんな彼女の肩越しに真弥を一瞥してから言いました。

「……いえ、やっぱりいいです。もし、知ってたらくらいのことなので」

「大丈夫! あたしの情報網はそこそこすごいんだから、期待してて! ――というわけで、この話はいったん置いといて、次の質問どうぞ!」

「どうぞと言われても、もう特にはないんですが……。じゃあ、もう一つだけいいですか?」

 この際なので、当初から気になっていたことを訊いてみることにしました。


「……お二人は……どういう関係なんですか?」


『え』――と、真弥と真陽瑠は顔を見合わせます。

「そっか! 話してなかったね。ひょっとしてこいつのこと彼氏だと思ってた?」

 どう見ても、ただの友人関係とは思えない親密さでした。

「あるいは、こういう場では『冗談じゃない!』って、顔真っ赤にして否定しておきながら、本心では相思相愛の幼馴染かなんかですか?」

「あはは、あるある!」

 真陽瑠は笑いながら、両手で『やれやれ……』を表現していた真弥の襟首をつかみ、自分の顔の横へとたぐり寄せました。


「似てない? あたしと真弥って」

「え?」

「双子なんだ、あたしたち!」

「……――ええ!」


 ……と、まあ、今さらですが、二人の関係はそういうわけです。

 その後、別れ道で「夕飯うちで一緒に食べない?」と真陽瑠が誘いましたが、それは丁重に断られました。

「初日からがっつきすぎだぞ」

 真弥は、どこかの誰かが言われた科白で、残念がる真陽瑠をたしなめました。


 降水確率40パーセント――。

 朝から空を覆っていた雨雲は結局仕事をせずに、二人が傘を学校に忘れたのに気づいたのは、家についてからでした。



 その夜、明日の授業で提出する分の夏休みの宿題を広げながらも、作業そっちのけで話題に上がるのは、当然あの不思議な転校生のことでした。


「――だけど、あの怪談ちゃんさ……」

「怪談ちゃん?」

「ああ。なんか怖い話が好きみたいじゃん? だから、怪談ちゃん」

「あは、なんかかわいい! 怪談ちゃんかぁ! いいね、怪談ちゃん!」

「うっかり、本人の前で言うなよ? ……でさ、その怪談ちゃんなんだけど……なんか、あやしくない?」

 真陽瑠の顔つきが変わりました。

「うん! すっごく、あやしい!」

 力強く肯定します。話をふった真弥も口元に笑みがありましたが、真陽瑠はそれ以上に楽しげな表情で、瞳はLEDばりに輝いています。

「なんか隠してるよね! 人には言えない秘密をさ!」

「まあ、さすがにおまえでも気づくよな。殺虫剤の言い訳とか、無理あったもんな」


「え? あれ嘘なの?」 

「え……」


 唖然とする真弥を前に、真陽瑠はわざとらしく咳払いをし、

「そ、そうね、嘘だよね。わかってるってば! 放課後のオリエンテーションも、絶対他の目的があったよね。実は学校の心霊スポット探しとかだったんだよ。怪談ちゃんだけに!」

「だけにって、その名前はたった今、おれがつけたんだろ……」

 とは言え、オカルトがからむと、あの奇妙な行動にも合点がいきます。

 本人が称するところの殺虫剤という名の塩と、アルコール――すなわち酒。どちらも心霊番組で霊を撃退するアイテムとしてよく出てきます。

 それを撒き散らしていた時の必死さから察するに……。


「あたし思うんだけど、怪談ちゃんってさ、実は幽霊が見えたりとか!」

「そうなのかもな。……それが本当にいるのかどうかは別として……」

「うん? どういうこと?」


 巷では、中二の頃からそんな症状の病にかかる人間が多いようです。

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