第79話 ソフィア嫁ぐ

 デュポン暦2023年6月下旬


「エミリア、話したい事があるの。二人きりで話せるかな?」


 衛生隊寮で待ち合わせするなり、ソフィアが真面目な顔つきで言った。

 ソフィアの部屋は相部屋の為、エミリアは自分の部屋へと案内した。


 何だろうと緊張しながら、エミリアはソファーに座るソフィアに紅茶を差し出した。


「どうしたの……?」


 エミリアはラグの上に座り、恐る恐る尋ねた。いつもは相談に乗ってもらう立場なので、どうすれば良いのか分からない。


「あぁ、うん。あのね……」


 ソフィアが躊躇いながらエミリアを見つめて口を開いた。


「プロポーズされて……」


「へ?」


 エミリアは一瞬思考が停止した。


「えっと、その……ヴィートさんに?」


「うん」


 ソフィアが控えめに微笑む。

 エミリアは戸惑った。二人は付き合い出してまだ半年ほどだ。


「プロポーズ、お受けする事にしたの」


 ソフィアがゆっくりと言った。


「へ! えー……、え、……つまりは、結婚……?」


「うん……」


 ソフィアが結婚。

 つまりはリパロヴィナに行くという事?

 軍を辞めるという事?

 本当に?


「先日リパロヴィナに行ってきた際にプロポーズされて、そのまま向こうの両親にもご挨拶をしてきたんだ。このままずっと遠距離恋愛も大変だし、向こうの両親もウェルカムでね……」


 途中からソフィアは声を震わせ、言葉を詰まらせた。

 エミリアは涙を流し、ソフィアの目からも涙が溢れる。

 エミリアはソフィアを抱きしめた。


「ソフィア……すぐに言えなくてごめん……おめでとう!」



「それでいつリパロヴィナに行くの?」


 ソフィアの隣に座り直して言った。


「これから退職届出して、2ヶ月後くらいかな……」


「そっか。引っ越しなどで忙しくなりそうだね」


「そうなの。国際結婚の手続きとか大変そうでね……」


 ソフィアが紅茶を一口飲む。


「シルドから列車で3時間の距離だし、エミリアに会いに来るからね」


「うん。離れても連絡取り合おうね。本当におめでとう、ソフィア」


 ソフィアが優しく笑い、「ありがとう」と言った。



 2ヶ月後、エミリア含む同期の友人達と衛生隊員でソフィアを駅まで見送った。

 列車の到着時間まで後わずか。

 ソフィアはエミリアに持ってもらっていた荷物を受け取った。


「エミリアは第一線で活躍して、凄いなぁと思うと同時にとても心配でね。どうか無理し過ぎないようにね。いつもエミリアの事見守ってるからね」


「うん、ソフィアも無理しないでね。いつでも帰って来てね! 私も会いに行くし!」


 ソフィアは到着した列車に乗り込み、リパロヴィナへ旅立った。

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