第65話 押しが強いよ、ルジェクさん……

「凄く気に入られちゃってるね、エミリア」


 勤務終了後、衛生隊の談話室にて、ソフィアと2人で過ごした。


「押しが強いよ、リパロヴィナ人……」


 何故諦めてくれないのか。エミリアはテーブルの上に顔を伏せた。


「その人はエミリアにとっては、ないの?」


 ルジェクが恋愛対象かどうか。その答えははっきりとしている。


「ないよ」


「そっかぁ」


 エミリアとソフィアは2人で溜息をついた。


 実は見た目はかなりタイプなのだ。年齢的にも2、3歳差は理想だ。ルジェクと話すのは新鮮で楽しい。しかしそれでも恋愛対象はあの人だけ。


「ところで、ソフィアの方はどうなの? 例の……ヴィートさん?」


「あぁ、うん……」


 ソフィアは少し照れて、頰を桜色にした。


 合同演習の時に、ソフィアはリパロヴィナの衛生兵ヴィートと知り合い、2人はいい雰囲気になっている。リパロヴィナ兵に絡まれているところをヴィートに助けてもらい、仲良くなったようだ。11月にアーデルで会うと言っていたが、その後どうなったのか。


「付き合う事になったよ」


 ソフィアがにこりと笑った。


「え!? お、おめでとう!! そうだったんだ! ごめん、私、自分の事ばかり話して!」


「ありがとう。こちらこそ報告が遅くなってごめんね」


 お互い忙しく中々会えないので、それは仕方がない。


 11月にアーデルで会った時、帰国間際に告白されて、以来文通を続けており、今月またアーデルで会うらしい。


 エミリアは自分の事の様に嬉しいし、ソフィアが幸せそうなのが何より嬉しい。


「クリスマスシーズンのデートだね。文通で愛を育んでやっとまた会えるんだね」


 ソフィアはうーんと唸った。


「文通、検閲入るから、やりづらいんだよね」


「あぁ、検閲済のスタンプ押されてるよね」


 ルジェクからの手紙も開封されてスタンプが押されていた。スパイ活動をしていないか確認しているのだろうか。今は戦争などないし検閲など無意味だとエミリアは思う。


「エミリアも気まずくない? 上司にいつデートするのか筒抜けなの」


 一瞬頭が真っ白になり、もう一度ソフィアの言葉を反芻する。


「上司……? 検閲は事務局の人でしょ?」


 ソフィアが困ったような顔をする。


「検閲官から、直属の上司まで伝わってるはずだよ」


「直属の上司……」


「ルイス中佐は確実に知ってるよ」


 エミリアは一気に血の気が引いた。


「検閲官から話だけ聞いて、手紙の中身は見てないかもだけどね」


 ソフィアが慰めるように言った。



 12月はばたばたと月日が流れた。


 エミリアは今年シールド戦功章を頂いた。ルイスも戦功章受章。今年もパートナーでW受章だ。ダンジョンの出現で、授賞式と舞踏会は欠席を伝えていた。


 また翡翠色のドレスを着てルイスと踊りたかった気持ちもあるが、場違いな場所と貴族令嬢達からの冷たい眼差しに、辛い気持ちにはなりたくないので、エミリアはこれで良かったのだとも思う。

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