第63話 リトエガ出てこい。でも怖い (後編)

「回復魔法使えるか?」


 ルイスがエミリアに話しかけた。


「無理……そう……です……」


 体が痺れて動かない。おそらく毒を受けている。血も流れ起き上がる事ができない。意識が朦朧とする。


 ルイスは通信機を起動した。


「こちら第1箒兵大隊長ルイス・ゲラン。モンスターとの交戦で兵が一人負傷。体の痺れで回復魔法をかけられない状況。体力がかなり落ちている。至急衛生兵をイル区A15まで派遣してくれ」


 ルイスは持っていた包帯でエミリアの腕と足を止血した。


「回復薬飲んどけ」


 小瓶に入った回復薬の蓋を開け、エミリアの口元に持っていく。


「ぶっ!」


 口に(瓶が)触れられたため、エミリアはびっくりして薬を吐き出してしまった。


「あぁ! お前! 貴重な回復薬を! もうあと一本しか持ってきてないぞ」


 がさごそとポケットを漁り、ルイスは静止した。


「……そうだ、カーターに渡したんだった。忘れてた」


 ルイスがエミリアの方へ振り返りまじまじと見つめた。


「何ですか……」


「回復魔法使ってみていい?」


「使って……みて……いい? ……とは?」


 ルイスとパートナーになって二年。そういえば、エミリアは一度もルイスの回復魔法を見たことがない。


「え……使えるんですよね……?」


「初級ならなんとか。でも久しぶり」


「それ、大丈夫なんですか?」


「久しぶりに試してみたい思いはある」


「実験台なんて嫌ですよ! 衛生兵来るまで待ちます!」


「まぁまぁ。たぶん大丈夫だから」


「たぶんって……うぅ」


 エミリアは本格的に辛くなってきた。酷い目眩がしてきた。


『――清らかに舞う光よ、傷を癒せ――』


 翠色の光が現れ、エミリアを癒す。


「おぉぅ、できた」


「できたって……」


 初級レベルの治癒魔法なので、多少体力が回復する程度だが、ルイスに回復してもらうとエミリアは気持ちがほっこりした。



「しかし……攻撃は最大の防御ですね……」


「おい。お前だけはそれを言っちゃいけないと思うぞ」




 五日間個室で入院する事になった。三日目からは目眩が改善し、少し動けるようになってきたが、ベッドの上で安静にしておかなければならず、看護師がたまに血圧や体温を測りに来る時以外はエミリアは暇で何もやる事がない。


 昼過ぎ、扉がノックされて、ルイスが病室に入ってきた。


「体調どう?」


「少し良くなりました」


 すっぴんで、着ているパジャマも可愛いものではないので恥ずかしい気持ちになった。さりげなくパジャマが見えないように、布団を首まで覆う。


 ルイスが、雑誌と飲み物、菓子を机の上に置いた。


「入院中暇だろ? 欲しいもんあるなら他に持ってくるぞ」


「せ、先輩……なんていい人なんですか」


「俺はいつもいい人だ」


 ルイスの目がきらりと輝いた。

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