第62話 リトエガ出てこい。でも怖い (前編)

 デュポン暦2022年10月末


 赤い単眼に黒い触手のモンスター、リトエガの出没連絡が来たのは2日前。すでにリトエガに襲われたと思われる遺体が数名出ている。日中はカーター班、夜はエミリアとルイスが森で待機してリトエガを探している。まだ2日目だが、昼夜逆転の生活は堪える。エミリアはなんだか陽の光を浴びないと元気が出なかった。木々の隙間から見える空は星が輝いていて綺麗だが、周囲は真っ暗で怖ろしい。


「夜は帰りましょうよ」


 エミリアが弱音を吐いた。


「ダメだ。夜行性だから、夜の方が出くわしやすい」


 なら、カーターさん達も呼べばいいのに。夜行性だからって黒色のモンスターだから見つけづらいし。


 エミリアは日中寝ては来たものの、深夜になり、少し眠たくなってきた。近くに川が流れているので顔を洗うことにした。ついでにトイレにも行きたい。ルイスに許可を取り、野営地から少し離れる。一人行動はしたくないが、流石にトイレに付き添ってもらうわけにはいかない。冷たい川の水で顔を洗い、目が覚める。そして来た道を足早に引き返す。


 早く先輩の元に戻ろう。そう思った瞬間、急に肩に激痛が走った。

 訳の分からない痛みを感じて、背後を振り向くと、巨大な赤色の単眼が静かに暗闇に浮んでいた。


 リトエガだ。すぐに先輩に知らせなければ。


 後ずさりするエミリアに触手が襲う。エミリアは防御魔法を唱えたが、触手はシールドを突き破り、太腿を貫いた。


 防御魔法が効かない。


 エミリアはその場にうずくまった。目の前には、リトエガがシュルシュルと音を立て複数の触手をうねらしている。


 あぁ、なんで私は攻撃魔法ができないんだろう。


 エミリアは抗うことも出来ず、触手が体に巻きつき締め上げられた。


 こんな所で死ぬの? 最期にもう一度先輩に会いたい――



 その時、周囲がパッと明るくなった。

 仕掛けていた魔法具の光魔法が発動。同時に風魔法。幾重もの風の刃が、エミリアを避けつつリトエガへ襲いかかる。しかしまだ触手はエミリアを締め付けたままだ。


「チッ」


 ルイスが苛立ちながら舌打ちをする。再度、風魔法を唱え、風の刃で触手を切り落とそうとするが、エミリアに巻きついた触手は絡まり合い、取り除くことができない。

 エミリアは思うように息が出来ず、ルイスに目で訴えた。


「もうちょい耐えろ」


 青白い光がエミリアを包む。防御魔法だ。

 その後に唱えられた雷魔法により、リトエガに雷撃を与えた。


 容赦がない。私に当たったら死んでしまう。


 触手が緩んだ瞬間、ルイスは力づくでリトエガからエミリアを引き離した。

 触手がルイスを捕らえようと襲いかかる。


「Lightning Blade!」


 瞬時に足元に魔法陣。無数の稲妻の刃が、リトエガの赤い単眼にめがけてふりそそぐ。雷魔法の連発で周囲は魔法具なしでも明るくなる。のちにリトエガの動きが止まった。エミリアは地面に横たわりながら、リトエガが息絶えるのを見つめた。

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