第60話 合同演習⑦〜イケメン外国人箒兵ルジェク少尉の登場〜

 合同演習の集大成として最後にアーデルランド軍とリパロヴィナ軍混合チームを大きく二つ作り、それぞれ代表者を数名選抜し対戦試合を行った。試合後は後片付けをして一時間後の閉会式までは休憩だ。


「先輩、先程は申し訳ありませんでした」


 エミリアがルイスに駆け寄り謝った。


「上層部がいるからって集中切らすなよ」


「すみません……」


 エミリアは上層部が来ていたことにも気づかなかった。


「先輩なんだかお疲れですか?」


 エミリアには、なんだかルイスがやつれているように見えた。


「うん、まぁ」


「はじめまして。ルイス中佐」


 いつのまにかルジェクがやってきて、にこりとルイスに話しかけた。

 エミリアは瞬時に息が止まりそうになった。


「中佐殿はどんな女性がお好みですか?」


「!!?」

 エミリアは本当に息が止まりそうになった。


「……好きになったやつが好みの女」


「えー。よく分からないですね。ちなみにエミリアちゃんは中佐のタイプですか?」


「……それはない」


 ルイスが放った言葉は、エミリアの胸に深く突き刺さった。


「じゃあエミリアちゃん頂きますね!」


 本当にルジェクは何を言っているのか。

 エミリアがいい加減ルジェクを止めようとした所、ルイスが口を開いた。


「エミリアはダメ」


 予想外のルイスの返答に、エミリアは固まった。


「エミリアは俺が手塩にかけて育てて、やっと物になってきたやつだから。今までこいつに投資してきた分の回収まだだもん」


 喜んでいいのかどうなのか、エミリアは複雑な気分である。


「でも上官が部下の交友関係にまで口出しできないですよね」


「他は知らんが俺は出すよ。こいつは絶対ダメ。じゃあ聞くが、君、こいつと結婚する気あんの?」


 また予想外の言葉にエミリアは固まった。


「アーデルランドの場合だけど、スパイ等によってアーデルランド軍の情報が漏れるのを防ぐため、外国人と結婚したら左遷されて出世もできないよ。おそらく他の国でも同じだと思うけど覚悟あるの? あと軍人だから頻繁に外国に行けないし。うちの場合、誰と、どこに、何泊するのか、どこのホテルに泊まるのか、細かく記載して事前に届出を出さないといけないんだけど、大丈夫?」


 あまり頭に入ってこなかったけど、国際恋愛は大変そうだ、とエミリアは息を呑んだ。


「ご忠告ありがとうございます。でも俺諦めませんから」


 ルジェクがにこりと笑った。エミリアはどっと疲れた。



 閉会式が終わり、リパロヴィナ軍の演習場でパーティが始まる。飲酒が解禁され隊員達は嬉しそうだ。ルイスが疲れていたように見えたのでエミリアは心配だったが、すでにルイスは他両国の幹部と会食に出掛けてしまった。そしてエミリアはルジェクに話しかけた。


「一週間ありがとうございました」


「うん。……何、別れの挨拶? 明日一日フリーなんでしょ?」


「あ、はい。でも明日は一人でいようと」


「……中佐誘うの?」


「まさか!! 本当に一日ゆっくり休んでおこうと思いまして。ルジェク少尉に色んな所に連れて行って頂き、本当に楽しかったんですけど、初めての異国での演習に少し疲れてしまいまして」


 慣れない経験をたくさんんしたからもう気疲れが半端ない。慣れない経験とは主にルジェクとの関わりの事だ。


「そっか。じゃあ今日はいっぱい楽しもうね」


 エミリアはルジェクと色々喋った。趣味、好きな場所、休日の過ごし方など。

 もうすぐ飲み会終了の時間だ。ルジェクともお別れ。


「俺にすればいいのに」


「……え?」


「だから、俺にしなよ。ちゃんと大切にするから」


「あ、いや、あの……」


 ルジェクは魅力的だ。一緒に話していて楽しくもある。でも――


「すみません。私はやっぱり中佐が好きなんです」


「それでも構わないよ」


「えぇ!?」


「俺が忘れさせるから」


 パーティ終了の鐘が鳴る。


「さよならは言わないから。手紙書くね」


 ルジェクがにこりと笑った。

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