第56話 合同演習③〜イケメン外国人箒兵ルジェク少尉の登場〜

 エミリアが宿営地に戻ると、すでにソフィアが待機していた。


「ソフィア! ごめん遅くなって。もうちょっと待ってね!」


 エミリアは急いで自分のリュックの中から着替えを取り出す。


「エミリア……。その事だけどごめんなさい」


 ソフィアがとても申し訳なさそうにエミリアに謝る。衛生隊ソフィアの班と共に演習を行った、リパロヴィナ軍の班で食事に行くことになったそうだ。


「そっかそっか。気にしないで。楽しんできて!」


 エミリアは快くソフィアを見送った。さて困った。宿営地以外での1人行動は禁止されている。戻るのが遅くなった為、誘えそうな仲間はすでに宿営地を出ていた。エミリアは私服に着替えて、とりあえず基地の正面玄関まで向かった。リパロヴィナ国でのアーデルランド兵による箒の飛行は禁止されている。基地から街へは徒歩20〜30分。馬車待合所はあるが列をなしていて、ほとんどの隊員達は徒歩で街に向かっていた。エミリアは正面玄関にて知り合いを探した。そこでエミリアを呼ぶ声が聞こえた。


「エミリアちゃん!!」


 出発しようとする馬車の中から、先程のリパロヴィナ箒兵ルジェクが出てきた。


「1人? 乗りなよ」


「いや、1人行動が禁止されてまして。リパロヴィナの方々がいても、アーデルランド兵は2人以上で行動しなければならないんです」


 エミリアは、はっきりと断った。


「ふーん。そうなんだ。ちょっと待ってて」


 ルジェクが馬車の中にいる隊員に声をかけると、すでに馬車の中にいたリパロヴィナ兵2名が降ろされ、他のリパロヴィナ兵1名とアーデルランド女性兵1名が乗り込む。


「よし乗って! エミリアちゃん!」


「え!? いや私は……」


「早くしないと出発しちゃうから!」


 ルジェクがエミリアの手を取り馬車の中へ無理矢理押し込んだ。全く知らないアーデルランド女性兵とリパロヴィナ男性兵、ルジェクの4名で馬車が出発する。何故こんな事に。あまりにも急な出来事にエミリアは混乱した。


『女、酒、1人行動禁止!』


 ルイスの言葉が頭をよぎり、エミリアは不安になった。馬車の中で4人自己紹介をする。リパロヴィナ男性兵はドリアン。アーデルランド女性兵はケイシーと名乗った。ドリアンはルジェクと同じく箒兵第二大隊。ケイシーは第6歩兵大隊の隊員だった。ドリアンとルジェクは親しい間柄のようだ。


「ルジェク少尉、何処に行きます?」


 ドリアンが言った。


「ジビエ料理のあそこ……ADRIANAに行ってみようか」


「いいすねー!」


 ドリアンはケイシーと仲良く話し始める。狭い空間に男女4人。とても気まずい。エミリアは早くも帰りたい気持ちになった。


 街へ到着しジビエ料理店ADRIANAへ入る。エミリアは滞在中ジビエ料理を食べたいと思っていたので嬉しくはある。しかも地元人おすすめの店。ルジェクとドリアンが酒を注文する。エミリア達は飲酒禁止なのでノンアルコールドリンクを注文した。


「エミリアちゃんって彼氏いるの?」


 ルジェクに唐突に聞かれてエミリアは口に含んだ飲み物を吐き出しそうになった。


「い、いませんけど」


「マジで? こんなに可愛いのに」


 エミリアは固まった。


「ヒュー! ルジェク少尉、攻めますね!」


「もちろん攻めるよ!」


「はははは!」


 ドリアンが笑う。ケイシーも一緒になって笑っている。

 何が面白いのかエミリアには分からない。ルジェクは社交辞令が多い。そしてとても軽そうだ。



 その後エミリアの普段の仕事の話を聞かれたので、エミリアはいつのまにかルイスの話をしていた。


「――ほんとたくさんの攻撃魔法を習得していて凄いんです! 普通は苦手な属性の攻撃魔法とかあると思うんですけど。一つ一つの魔法の質も高くて!」


「……エミリアちゃんはそのパートナーの事が好きなのかな?」


 ルジェクの問いにエミリアは口をつぐんだ。


「あははは。エミリアちゃんて分かりやすいね!」


 そんなに分かりやすいのだろうか。レイちゃんやマッティアさんにもバレてしまったし、気をつけなければいけない……。

 エミリアは軽く辺りを見回すが、幸い知り合いはおらず、ケイシーとドリアンも席を外している。


「……内緒にしといて下さい」


「もちろん。誰にも言わないよ。でも中佐でしょ? 色々大変なんじゃない?」


「……部下としてしか見られていないのは分かってますから。今は告白する気はなくて、先輩の役に立てるようになりたいだけなんです」


 エミリアはグラスを見つめた。


「へー。でもそれってそもそも恋なの? 憧れなんじゃないの?」


「え?」


「俺だったら好きになったらその子に一直線だなー。相手の立場がどうであろうと、仕事は仕事、恋は恋。好きな気持ちに我慢なんてしないよ」


 ルジェクはエミリアを見つめて微笑んだ。


「そうですか……」


 リパロヴィナ人は情熱的な人が多いのだろうか。


「明日はもっとおすすめの場所に連れて行くね」


 エミリアは、YESと答えたつもりはないのだが、いつのまにかまた4人で回ることが決定していた。


 宿営地に着いて、ソフィアと会話をしたかったが、ソフィアのいる衛生隊のテントが遠く、フリータイム時間内に戻れそうにないので、その日はそのまま自分のテントに戻った。

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