第55話 合同演習②〜イケメン外国人箒兵ルジェク少尉の登場〜

 合同演習二日目


 朝9時。リパロヴィナ西部の広大な土地にて合同演習が始まった。昨日の祝宴で挨拶を交わしたメンバーで、リパロヴィナ兵の術者により作られたゴーレムを仮想モンスターとして討伐する。ルイスはリパロヴィナ幹部との会合で不在だ。週の後半は演習に参加するかもしれないが、殆どは別行動という事だった。


 リパロヴィナ兵が仮想モンスターに攻撃を始める。さすがリパロヴィナの花形部隊。エミリアは巧みな剣さばきの迫力に終始驚きを隠せなかった。そしてエミリアの番が来て、防御魔法を発動する。リパロヴィナ兵からの視線を感じ恥ずかしかった。人に見られるのは緊張する。


 夕方、無事演習が終わり、エミリアが屈んで演習で出たゴミの後片付けを行っていると、1人のリパロヴィナ兵に話しかけられた。


「防御魔法得意なんですね」


 顔を上げると、エミリアより2、3歳年上のような薄茶色の髪の青年が立っていた。まつげの長い垂れ目の青年。いかにもモテそうなルックス。彼はルジェクと名乗った。


「何で攻撃部隊にいるの? 辛くない?」


 昼休みに他の隊員にも同じ質問をされた。リパロヴィナ兵にとって攻撃部隊に女性隊員がいるのは珍しいらしい。エミリアは簡潔に答えた。リパロヴィナ兵達は目をギラギラさせて質問攻めをしてくるので疲れる。エミリアは助けを求めようとルイス班のメンバーを探したが、みんなエミリアから遠い位置で後片付けをしている。押しの強い人は正直苦手だ。男の人は少し怖いし。でも話して見ると意外にいい人だったり、面白い話を聞けたりするので、合わないと始めから決めつけるのは良くないないな、とも思う。


「リパロヴィナは初めてですか?」


 ルジェクは笑顔でエミリアに尋ねた。


「はい……リパロヴィナ兵は刀で戦うのですね。刀なんて初めて見ました」


「他国にはないもんね」


 ルジェクはにこりと笑った。同時に仕事終了の鐘がなる。


「よかったら刀見てみる?」


「え! いいんですか?」


「いいよ」


 ルジェクは帯刀していた刀をエミリアに差し出し、エミリアは恐る恐る刀を両手で受け取った。


 刀は、ずしりと重く感じた。


「す、凄いですね……」


 言われるがままに、刀を鞘から少しだけ抜くと、刃からは思わず吸い込まれそうな不思議な魅力を感じた。洗練されたその姿は、鋭さ、美しさ、強さに満ちている。


「この曲線、いいですね。なんていうか、とても神秘的できれい」


「そう?」


「ありがとうございます……」


 エミリアは丁寧に刀を鞘に納め、ルジェクに返した。


「こんな重たいものを自在に操ってすごいですね」


「重たく感じた? 実際は1.5kgくらいしかないよ」


 ルジェクは、爽やかに笑った。

 

 エミリアがふと辺りを見回すと、ほとんどの両国隊員がすでにグラウンドを去っていた。時間を忘れて刀の魅力に取り憑かれてしまっていた。


「すみません、長く引き止めてしまって。刀、ありがとうございました」


 エミリアは慌てて別れの挨拶をしてグラウンドを去ろうとする。


「あ、待って。この後一緒に街を回らない?」


「え!?」


「料理の美味しい店案内するよ」


 地元民おすすめの店とは有り難いが、このあとソフィアと待ち合わせをして、観光する事になっている。


「すみません。予定があるので」


「予定? どんな?」


「友人と待ち合わせを……」


「じゃあ友人も一緒に行こうよ」


 エミリアには、ルジェクが女の子と遊び慣れしているように感じた。

 軟派な男は苦手だ。


「すみません、2人で回る予定なので! 失礼致します!」


 エミリアはきびきびと挨拶をして足早にグラウンドを後にした。

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