第54話 合同演習①〜イケメン外国人箒兵ルジェク少尉の登場〜

 デュポン暦2022年10月 訓練場にて


「リパロヴィナ国に行くんですか!?」


 エミリアが大きな声を出した。


「そうよ。1週間、リパロヴィナ兵と軍事合同演習をするの。他国の兵士に会える貴重な機会なのよ。仕事後は観光も楽しめるわよ」


 アイリーンが言うには、滞在は1週間。平日朝9時から夕方5時まで合同演習、夜9時までは宿営地から外出可。土曜日は自由行動日。日曜日に帰国するらしい。


「それって、めちゃくちゃ楽しいイベントじゃないですか!?」


 リパロヴィナ国の観光が楽しめる。


「そうよ! 二年に一度のお楽しみなんだから! 観光雑誌買っておいた方がいいわよ!」


 エミリアは「はい!」と元気よく返事をした。

 リパロヴィナはアーデルランドの東部と隣接しているのだが、森林が多く、包丁の質が良いという事くらいしか知らない。仕事が終わったら早速観光雑誌を買いに行く事に決めた。



 合同演習一日目


 アーデルランド・イル師団が、リパロヴィナ西部に移動して、早速、記念式典が行われた。両国将校等の挨拶スピーチが行われる。またリパロヴィナ中央音楽隊によるパレード、箒兵によるエアロバティック飛行が披露された。音楽隊の生演奏に合わせた華麗な曲技飛行にエミリアは大興奮。そして目玉のリパロヴィナ兵による剣術披露! リパロヴィナは刀を使用して戦う兵がいる事で有名らしい。魔法メインのアーデルランドとは特色が異なる。オチ師団第二大隊大隊長ミハル大尉が神がかった剣術を披露し、エミリアは息を飲んだ。


 そして休憩を挟んだ後、簡単な祝宴が行われた。2日目から行われる合同演習は、リパロヴィナ軍との混合チームを作り共に演習を行うので、同じチームになった両国隊員同士は自己紹介を行うことになった。エミリアたち第1箒兵大隊は、先程剣術を披露したオチ師団第二大隊と組むことになり、ミハル大尉とルイスが挨拶を交わした。こんなに近くで刀使いの方と交える事ができるなんて、とエミリアはわくわくした。


 エミリアは、他の第二大隊の方々と挨拶をして、ふと気づいた。女性隊員が見当たらない。男の兵士ばかりだ。アーデルランドの攻撃部隊も女性は少ないが、1つの小隊に数名はいる。逆にリパロヴィナ兵からすれば、女がいることが驚きなのだろう。アイリーンやエミリアはリパロヴィナ兵の注目を集めた。1日目はそれで終わり、アーデルランド軍は、宿営地へ向かった。


 宿営地にてアーデルランド兵が集合している。隊員達は早く街に繰り出したくて落ち着きがない。大佐が隊員達の前へ出た。


「明日からの合同演習だが――リパロヴィナはアーデルランドと比較すると、国土は小さいし兵士も少ない。剣術体術など物理攻撃に特化しており、魔法技術は我々に比べると劣っていると言えよう。しかし、1人1人の志気がとても高い! 絶対に負けないという精神的な強さがある! 兵士は全力で戦うし、また個々の力もとても強い。君たちはリパロヴィナ軍から特に士気、意欲を学ぶように!」


 その後、他の大隊長数名も注意事項を話すが、隊員達は早く解放されたくて集中力が途切れている。順番が来て、第1箒兵大隊大隊長であるルイスが喝を入れる。


「いいか、お前ら、絶対に1人で行動するな! 歓楽街は禁止だ! 飲酒は認められない。アーデルランドの代表として軽率な行動は絶対に控えろ。絶対に女と酒、1人行動は禁止だ!」


 ルイスが声を荒げている。

 何回「絶対」と言うのだろう、と思いながらエミリアはただただ傍観していた。



 その後お開きになり、エミリアは自分の寝床へ向かった。その途中で隊員達の声が聞こえてきた。


「リパロヴィナは、花街があるんだよな?」


「あぁ。ちゃんと調べといたぞ」


「行くのか? 見つかったらやばくないか?」


「先輩隊員たちも行ってるようだぞ。見つかったら罰として24時間200キロのマラソンらしいが」


「げぇ、24時間200キロマラソンて」


「でも行くよな? 異国の女を知りたい」


 男性隊員達がはしゃいでいる。

 エミリアは軽蔑の眼差しを向けた。


「リパロヴィナ兵とお食事するくらいはいいわよね? 国交もかねてるんだし」


「そうよ。男が駄目だとは言われなかったしねー!」


 女性隊員達も浮き足立っている。他国に来てみんな浮ついた気持ちになっているのだ。

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