第47話 〇〇疑惑のマッティア中隊長の登場

 エミリアが大隊長室を出た後、後ろからマッティア中隊長が追いかけてきた。


「この後暇あるかしら?」


 あるかしら? エミリアは語尾に違和感を感じた。


「はい。大丈夫です」


「じゃあ私の部屋で飲みましょう?」


「え!?」


「大丈夫。パートナーのエマ中尉もいるから」


 エマはマッティアと同年代の40代、黒髪眼鏡の美人な女性である。マッティアに連れられ、エミリアはそのままマッティアの部屋へ向かった。


「じゃーん!!! 可愛いお嬢様を捕まえたわよ!!」


 マッティアが自室のドアを開けて叫ぶと、エマがソファーで寛いでいた。


「わーぉ! エミリアじゃない」


 エマがエミリアを歓迎する。マッティアともエマとも、エミリアは任務中に必要最低限の会話しかしてこなかったので、いきなりのこのフレンドリーな対応にエミリアは戸惑った。


「聞いてよ! エミリアが中級魔術士試験受かったのよ!」

 とマッティア。


「えぇ!? あなた試験受けたの!? え!! 受かったの!? 凄いじゃない!!!」


「エマ、取り乱しすぎー♡」


 マッティアとエマが盛り上がる。エミリアの知っているマッティアは、任務中、落ち着いて的確な指示を出す、格好の良い男性だった。いつもとは明らかに異なる女っぽい喋りのマッティアに、エミリアは驚きを隠せない。


「エミリア、そんなところに突っ立ってないで、こちらに座って?」


 マッティアがダイニングテーブルの椅子に座るよう促す。


「ありがとうございます」


 エミリアは礼を言い、ぎこちない動きで席についた。


「残り物しかないけど、晩御飯食べていって。女子会よ! あなたとは前々からちゃんと喋ってみたかったの」


 マッティアはキッチンに行き、エプロンをした。


「あ、ありがとうございます」


 女子会? 女性2人に男性1人では? エミリアの頭に疑問符が浮かぶ。


「マッティーが女子に興味を持つなんてほんと珍しいよねー」


 エマが酒の入ったグラスを片手に、エミリアの斜めの席に座った。


「だってこの子見てると放っとけないんだもの! 聞いてよエマ! エミリアったら本当信じられないのよ!?」


 エミリアの前に手際よく料理を並べてマッティアが声を荒げた。

 何かしでかしただろうか。エミリアはマッティアから目が離せない。


「ルイス中佐が合格祝いにご褒美あげるって仰ったんだけど、何ねだったと思う?」


「えー、なになに?」


「包丁よ!!! なんで包丁なのよ!!!」


 リパロヴィナの包丁は良質なんですよ、と言いたかったが、エミリアは黙っておいた。


「えー。別にいいじゃない、何でも」

 とエマ。


「良くないわよ! エミリア、あなたルイス中佐が好きなんでしょう!?」


「はい!?」


 エミリアの心臓は飛び跳ねた。


「だーかーらー、恋しちゃってるんでしょ?」


 エミリアは口に含んだアイスティーをごくりと飲んで言った。


「……秘密です!!」


 マッティアが目を細めて、ふふんっと鼻を鳴らした。


「ほら、当たった。 私の勝ち!」


「え……?」


「なんだぁ。クリスじゃないんだぁ」


 エマが椅子の背もたれに体を預ける。


「えぇ!? 何ですか!?」


 エミリアは二人の顔を交互に見る。


「もう少し素敵なおねだりをすれば良かったのに」


 とマッティアがため息をついた。


「それがこの子の良さでしょう?」

 とエマがフォローをする。


「まぁねー」


「ちょっと待ってください……」


 エミリアが話に割り込む。


「そんなに私、分かりやすいですか? バレバレですか?」


「いえ? ただふっかけてみたら、当たっただけ。やっぱりルイス中佐なのね」

 とマッティアが答えた。


 エミリアは嵌められたことに気づいた。



「でもマッティーが味方するなんて、ホント珍しいよね。大好きなルイス中佐とられてもいいの?」


 エミリアは、「え!?」と驚いてマッティアを見た。


「ふふふっ」


 マッティアがエミリアに微笑む。


「嫌だけどぉ。エミリアならいいかなっとも同時に思っちゃうのよね。なんだか可愛いんだもの、エミリアって」


「へー、そう。マッティーも心広くなったね」


「んもぅ! 何よぅ!」


「え……。ルイス中佐が、好きなんですか?」


 エミリアは狼狽ながらマッティアに質問した。


「好きっていうか、ファンね。私彼氏いるから」


「彼氏……」


「マッティア中隊長は、ラブラブ彼氏がいるのに、ルイス中佐にも、うつつを抜かすような奴なのよ」


「だってルイス中佐カッコイイじゃない! あの眼差しに見つめられたら倒れちゃう! あぁん! もう素敵!」


「マッティーその辺で。エミリアが処理できなくなってる」


 エミリアは口をぽかんと開けている。


「あぁ、ごめんなさい、エミリア。私の場合はただ脳内で妄想して楽しんでるだけだから、気にしないで」


「いえ、えと、恋愛は自由だと思います」


「そう言う事じゃなくて! 私はエミリアを応援したいのよぉ。と言う事で、土曜日一緒に街へ出かけるわよ! 恋愛教授がてら、合格祝いにレストランへ連れて行ってあげるわ!」


「あ、ありがとうございます。」


 なんだか大変な事になった。

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