第46話 可愛くおねだりなんて出来ません

 猛勉強をした1カ月後


 イル区市街地にある試験会場にて、一次試験である筆記テストを受けた。

 魔法省、病院、転送局など魔法職従事者が受ける試験なので、軍属以外の受験者も沢山いる。


 二時間後、筆記テストが終わった。エミリアは、やれる事はやって悔いはなかった。今は開放感で一杯だ。あとは結果を待つのみだ。


 約1カ月後、魔法省中級魔術士試験運営部からエミリア宛に封筒が届いた。

 恐る恐る中身を開けてみると、二次試験のお知らせと記載されていた。

 エミリアは紙を持つ手を震わせながら、ルイスの元へと走った。



 その1ヶ月後の実技試験は余裕だった。魔法陣なし、無詠唱での魔法発動は、試験官・受験生から注目の的となった。


 試験後にエミリアは試験官に呼び止められて、どのように魔術を学んできたのか色々と質問をされた。イメージを高めて訓練をしているだけだとしか言えなかった。試験の為に魔方陣や詠唱文を覚えたが、エミリアの場合は、ただ本能で唱える方が上手くいく事が分かっている。おそらく混血が関係しているのだろう。



 デュポン暦2022年6月


 朝礼にて試験結果が出たと告知されたため、エミリアは業務終了後、大隊本部へと向かった。すでに大勢の隊員達が人事科前の廊下に集まっている。みんな結果を聞きに来たのだ。1人ずつ職員より紙を渡され、エミリアも職員より紙を受け取った。エミリアは緊張した面持ちで書面に目を落とした。



“エミリア・アッカーソン

 中級魔術士試験に合格した事を通知する。”



「……合格!!!」



 すぐさま大隊長室へ向かった。


「先輩!!」


 エミリアは興奮気味に勢いよく大隊長室の扉を開けた。

 椅子に座って仕事をしているルイスが顔を上げる。


「合格しました!!」


 エミリアは頰を紅潮させながら、大きな声で報告した。


「おめでとう!」


 ルイスがエミリアに笑顔を向けた。

 その顔は驚きより称賛。


「……あれ? もしかして知ってました?」


「俺の方にも連絡来た」


「なんだ、そうだったのですね」


 驚かせたかったのに、残念だ。


「……先輩もっと喜んでくださいよ」


「喜んでるよ」


 エミリアの期待していた態度からは遠い。


「もっと、わーー!って喜んで下さいよ!」


「わーー」


「違う! 声が低い! もっと高い声でわーー! って両手も上げて……」


 ふとルイスがエミリアからエミリアの隣に視線を移す。エミリアが疑問に思った直後に、背後から声が発せられた。



「可愛らしいお嬢様が随分とはしゃいでらっしゃいますね」


 綺麗で落ち着きのある男性の声。エミリアは扉の方へと振り返った。

 第1箒兵部隊のマッティア中隊長が立っていた。

 品のあるお洒落な雰囲気が漂う、すらりとした体型。中年男性向けファッション雑誌のモデルになれそうだとエミリアが常日頃思っている人だ。髪もいつもきちんとセットされている。そして、第1箒兵部隊には珍しく、いつも優しく挨拶を交わしてくれる素敵な人だ。


「何かあったのですか?」


 マッティアがルイスに尋ねた。


「エミリアが中級魔術士になったんだ」


 にんまり顔をしながらルイスが言った。


「まぁ!! ゴホゴホッ! うおっほん!」


 マッティアは一瞬高い声を出し、咳き込んだ。


「それは素晴らしいですね!! でしたらルイス中佐、何かご褒美をあげないとですね」


 物腰柔らかな雰囲気でマッティアが提案した。


「そうだな。エミリア、何がいい?」


「えぇ!?」


 ご褒美をくれるとは。エミリアはレイとの会話を思い出した。

『受かったら1日デートして♡ってくらい言いなよ! がんがん推していかないと他の女に取られちゃうよ!?』

 1日デート。

 エミリアは1人フリーズした。


 何か言わないと。せっかくご褒美くれると言ってるんだから、と思いながらエミリアは言葉を絞り出した。


「……包丁……下さい……リパロヴィナ産の切れ味の良い……」


「うん。分かった」


 1日デートしてだなんて、してほしいが、エミリアには言えない。

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