第44話 ちんぷんかんぷん、なんですよ
エミリアは勤務後、寮に戻り、試験要項に目を通した。
試験日 : 2022年5月5日
場所 : 中央、東部、西部、南部、北部の各試験会場
試験内容 : 魔術士として具有すべき知識及び技能。一次試験筆記、二次試験実技。
受験資格 : 初級魔術士資格保有者であること
受験手続 : 受験に関する書類は、魔法省 中級魔術士試験運営本部宛に2022年2月1日までに提出
実技は生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、補助魔法の中から2種類を選択し、それぞれ3つずつ魔法を唱える。技術点、構成点、減点を算出し、それらを合計した総合得点によって合否が判断される。エミリアの場合は回復魔法と防御魔法を選択することになる。どちらも上級レベルの魔法が唱えられるので、実技はまず大丈夫だろう。
問題は筆記試験だ。魔法史、魔法数学、魔法物理、魔法理論に関する問題を論文形式で出題。エミリアはロミオが貸してくれた過去問を開いてみる。
問1 : 防炎障壁魔法を唱えた後に水属系魔法を唱えた時の反作用を述べよ。
「…………。」
少し考えた後、次の問題を見る。
問2 : トーマス・コルトが発明したStoneFallが歴史に与えた影響を述べよ。
「…………。」
次の問題を見る。
問3 : 豪爆炎の詠唱文と射程距離を述べよ。また気候条件がどのように射程距離に影響を与えるか述べよ。
エミリアは静かに問題集を閉じて、うなだれた。
「無理……」
夜8時すぎ、部屋のドアをノックされ、エミリアは我に帰った。
エミリアは返事をしてドアを開けると、ルイスが立っていた。
「問題集開いてみた?」
「見てみましたがダメです。全く分かりません」
「だろうな」
一年目で中級魔術士試験を受けなければならない理由がエミリアには分からない。仕事も忙しいし、勉強する時間が少ないのに出題範囲は広い。
「教科書買ってきた。今日は魔法史をやるぞ」
「……教えてくれるんですか?」
「落ちられると困るからな」
夜9時ごろまでルイスは、つきっきりでエミリアに勉強を教えた。ルイスの教え方はとても上手かった。
「先輩、教官になれるんじゃないですか」
「モンスター倒せなくなるから嫌だ」
「モンスター倒すの好きなんですね」
「好きっていうか、天命だな」
「深いですね」
「別に深くはない。おい。頭動かせ」
「はい」
翌日、訓練学校時代の同期レイとゾーイと、箒兵兵卒寮食堂にて夕食をとった。
みんなそれぞれ忙しく、3人で集まるのは久しぶりだ。
「ルイス中佐ってほんとスパルタだよね! 」
第9箒兵部隊所属、レイが言った。レイはエミリアの代わりに、中級魔術士試験の件について怒ってくれている。
「優しい所もあるけどね」
エミリアは何となくルイスのフォローに回った。勉強を教えてくれたし、悪口を言うのは気がひける。
そんなエミリアを見て、レイは飲んでいたドリンクを机の上に置いた。
「エミリア。もしかしてルイス中佐に惚れた?」
「え!?」
エミリアは大きな声を出し、顔を真っ赤にした。
「そうなんだ。エミリアが好きになる男ってどんな奴か気になってたけど、中佐だったか」
「レイちゃん……、鋭いね」
エミリアは縮こまった。
「マジかよ、エミリア!」
第19歩兵部隊所属、長身色黒女性、ゾーイも隣で騒ぎ始めた。
「応援してるよー。試験受かったらルイス中佐に何かご褒美もらいなよ」
レイがニヤリと笑った。
小柄で幼い見た目なのに、何処か色気があるのは、彼氏がいるからだろうか?
レイは同い年だがエミリアより大人な雰囲気を持っている。
「ご褒美下さいなんて言えないよ……。というかまず受からないけど……」
それにご褒美ならエミリアは以前舞踏会の際にドレスを頂いている。その分もきちんと恩返しをしなければならないのである。
「そんな姿勢じゃ、ルイス中佐を振り向かす事できないよ!? 勉強のモチベーションアップにもなるしさー。中佐♡頑張るから受かったら1日デートして♡ってくらい言いなよ! がんがん推していかないと他の女に取られちゃうよ!?」
レイが熱くなっている。
「デートして。なんてそれもう告白じゃん!」
エミリアは慌てて返答した。
「うまく駆け引きしてさー。アピールするんだよ。好きです♡中佐♡て、雰囲気で伝えるんだよ!」
レイが体をくねらす。
「無理ーーっ!」
エミリアは顔を手で覆った。
相手は自分のパートナーなのに、告白して振られたら翌日から気まずすぎる!
「エミリアは乙女だなぁ」
ゾーイが眉を八の字にして呟いた。
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