第40話 ルイス班でキャンプします。寒い②

 ルイスを除くルイス班(もはや班長不在が多いのでカーター班と言ってもいい)は、箒に乗って空へ飛び立った。


 現場に到着するとアシル班の班員6名が身を寄せ合って、地面に座り込んでいた。

 周囲の地面は所々隆起し荒れていた。3〜5mほどの大きなイモムシ型のモンスター、リトルワームの無残な死骸が3匹、体液を撒き散らして地面に横たわっている。

 かなり激しい戦闘だったようだ。



 アイリーンが地面に降りるなり、先頭を切って負傷者の元に駆け寄った。エミリアも急ぎ後をついていく。アイリーンはきびきびと重症度を確認し、トリアージタッグを負傷者へかけていく。


「エミリア――」


「はい!」


 エミリアはすぐに全体回復魔法を唱えた。班員6名が翠色の光の粒子に包まれ、血色が回復していく。小さな傷はふさがり、軽傷者の治療は今行った回復魔法のみで充分だろう。そして一番の重傷者、リトルワームに腕を喰われてしまった兵士の前へと膝をつき、追加回復魔法を唱えた。


 アイリーンも優先度順に回復魔法を唱えた。

 二人の活躍で、みるみるうちに班員達の体力が回復した。



「いやぁ、助かったよ……」


 アシル班長がアイリーンとエミリアに感謝の言葉を述べた。

 ルイス班(カーター班)の並走で、アシル班達は軍病院へと向かった。無事、軍病院に送り届けた後、アイリーンがカーターの箒の隣にぴたりとくっついた。


「あんた、6名同時に回復魔法使えるのね」


 話しかけた相手は、カーターの後ろに乗ってるエミリアだ。


「初めてやってみました。思ったより回復出来なかったので、まだまだ練習必要ですね。……駄目でしたか?」


 勝手なことをして叱られるだろうか。


「いや、いいじゃない? と言うか、そんな練習してたのね」


「はい」


 エミリアには他の隊員達のように、新しい魔法の術式を覚えて、使える魔法を増やしていく事が簡単には出来ないので、防御や回復魔法の練度を上げるしかない。


「隊長が大人数同時に回復できたらいいねと言っていたので……」


「それ、凄くいいと思う。エミリアの武器になるよ。僕も負けてられないな」


 カーターが言った。


「ありがとうございます」


 エミリアは顔が少し熱くなった。



「カーター曹長は何人同時回復できますか?」


 クリスが眼鏡を光らせてカーターに尋ねた。


「僕は2人」


 カーターが穏やかに言った。


「アイリーンさんは?」


 クリスがアイリーンに振り向く。

 エミリアは、よくそんな際どい質問が出来るなとヒヤヒヤした。


「……私は3人」


 アイリーンが不愉快そうな顔をクリスに向ける。


「へーぇ」


 クリスは嘲笑うかのような顔をして、またアイリーンの怒りを買った。


「そう言うあんたは回復魔法散々じゃないの!」


「僕は良いんですよ。攻撃魔法メインですから」


「良かないわよ!」


 また2人の喧嘩が始まった。



 駐屯地から1番近い市街地シルド。勤務終了後、とある酒場にて、カーターとディランが酒を飲んでいる。


「我が班は、仲が悪すぎる……」


 カーターが神妙な顔つきで、言葉を吐き出した。


「隊長も我関せずだしな」


 ディランが蒸留酒を口に含んだ。


「隊長はお忙しい方だから」


「お前も隊長信者かよ」


「そうじゃないけど。主に班の指揮を取っているのは僕だから。何かいい方法ないものか」


「あ! あれはどうだ? 大晦日にみんなで集まってカウントダウンキャンプ」


「キャンプ!? この寒い時期に!?」



「採用」


 翌日、本部にて、ルイス隊長に相談をしたら二つ返事で許可が降りた。


「良いんですか?」


 自分で聞いておきながらもカーターは戸惑った。


「良いよ。訓練になるし、大晦日暇だし。何よりキャンプは楽しい」


 ルイスの目がきらりと輝く。


 そうだ。ディランも隊長も自然が大好きなのだった。

 アーデルランドの大晦日は友人同士でパーティを行い新年を迎える人々が多い。アイリーンやエミリア達も友人と集まる予定があったのではないかとカーターは懸念していたが、みんな快く承諾してくれた。

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