第20話 新人歓迎会をして頂きました②

 2時間程、大衆酒場に滞在した。

 エミリアは班員達の話についていけないことが多く、相槌を打ったり、返事をする程度しか出来なかった。


 歓迎会が終了し、店の外に出て、綺麗な空気を吸う。

 ルイスは一人店内に残り、お会計をしている。

 カーターとディランは二人で喋っている。

 エミリアがぼうっと佇んでいると、まさかのアイリーンが近寄ってきた。


「あんたさ……」


「はい……」


 アイリーンの威圧的な態度に、エミリアは縮こまった。


「身内に軍の幹部や官僚がいるの?」


 エミリアは唖然とした。


「いませんが……」


「なんだ。コネじゃないの」


 エミリアはアイリーンに嫌悪感を抱かれているようだ。ルイスに自分が邪魔者扱いされているのは知っているが、女性に嫌われるのはまた堪える。


「それじゃどうして箒に乗れないのに箒兵部隊へ選ばれるかね」


 アイリーンが腕組みをした。


「……二人乗りする事によって、機動力が落ちるのよ。隊長に負担をかける事になるのよ? あんた、隊長が優しいからって調子に乗るんじゃないわよ?」


 エミリアに厳しい眼差しを向ける。


「はい……」


 エミリアは顔をあげれなかった。

 調子になんて乗っていない。しかしルイスに負担をかけているのは確か。箒に乗れない自分がなんとも情けない。周りに迷惑をかけていると思うとさらに辛い気持ちになる。



 ルイスが店内から出てきて、解散の挨拶をした。

 カーターはシルドにある自宅へ。アイリーンもシルドの実家へと戻った。

 残りの4人は帰営するため、街灯の下、路地にて辻馬車を待つ。


 少し離れた所でルイスとクリスが魔法の話で盛り上がってる。クリスは、エミリアには無愛想だったが、ルイスの前だと、とても生き生きとした笑顔を見せてよく喋る。


「あいつらの難しい話、ついていけねぇ」


 ディランがエミリアの隣でぼやいた。


「……ですね」


 クリスとは一番歳が近そうだし、エミリアは頑張って話しかけてみたものの、全く話が続かなかった。エミリアに興味がないという雰囲気がひしひしと感じられた。


 一方、ディランは、怖そうな見た目とは異なり、優しそうに思える。


「今日は婆さんみたいな服来てないんだな」


 ディランがエミリアに面白そうに言った。


「婆さん!?」


 エミリアは大きな声を出した。


「クリスとアイリーンが騒いでたぜ。隊長の箒の後ろにお婆さんが乗ってるかと思ったら、うちの新人だったって」


 ゴブリン退治から戻ってきた時の話だろうか。エミリアは、あの日、町長夫人にお借りしたワンピースを着ていた。


「エミリアは箒乗れないけど、隊長の支援要員として選ばれたんだってなぁ」


「え、そうなんですか……」


「知らなかったのかぁ?」


 エミリアは支援魔法しか使えないので、よくよく考えればそういう事になる。


「隊長のパートナーになりたがってる奴いっぱいいるからなぁ。支援魔法が得意な奴もいっぱいいるし」


 ディランは少し離れた位置でクリスと話し込んでいるルイスを一瞥した。


「アイリーンなんて隊長にほの字だからな。ずっとパートナー希望してたし」


 それで自分にきつく当たるのか、とエミリアは下を向いた。


「俺はどちらの味方でもねぇけど、エミリアを面白く思わない奴は一杯いるわけで、相当頑張らねぇと、アイリーンどころか他の第1メンバーにも認めてもらえないだろうな」


「はい……」


 ディランの言う通りだ。第1に仕事の出来ない人間は要らないだろう。

 エミリアは黙り込んだ。


「歓迎会なのに、説教臭くなって悪いな! まぁ、めげずに頑張れ!」


 ディランがエミリアの背中を叩いて、笑顔で励ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る