第19話 新人歓迎会をして頂きました①
数日後
エミリアは仕事が終わり、私服に着替え、ルイスと二人、シルド市内の大衆酒場に向かった。エミリアの私服は、白シャツにプリーツスカート。上下とも着古している。そろそろ新しい服を買わないと、と思いつつ、貴重な休日は殆ど寝て過ごしてしまう。
大衆酒場に到着し、ルイスは先に到着していた仲間を見つけた。
「お疲れ様です!」
がやがやと賑わっている店内の端のテーブルに座っていた4人の隊員達がルイスに挨拶をした。エミリアは、班員はどんな人達なのだろうかと緊張しながら隊員達を見た。
4人中3人の顔に見覚えがあった。ふくよかな体型の目の細い男と、大柄な筋肉質の男。この二人はいつも挨拶をしたら、しっかりと返してくれる人達だった。朝礼時、目の細い男が声をかけてくれて、エミリアはいつも彼らの後ろに並んでいた。エミリアは同じ班になれて嬉しく思いつつ、同じ班だから自分を後ろに並ばせていたのかと、気づいた。
もう一人は、黒髪の長髪女性。挨拶をしても無視されるし、なおかつ睨まれた経験がある。できれば、エミリアは、この女性とは同じ班にはなりたくなかった。
ルイスと二人、並んで席に着き、全員でお酒を注文した。ルイスが隣に座っているふくよかな体型の細目の男と雑談をしてる。エミリアはどうしたら良いのか分からずルイスの左隣で縮こまっていた。全員分のお酒が到着すると、ルイスが言葉を発した。
「えー。こいつ、新人のエミリア」
「あ……! エミリア・アッカーソンです! よろしくおねがい致します!」
ルイスより紹介され、エミリアは急いで席を立ち、挨拶をした。
隊員達が拍手をし、いつも挨拶を返してくれる二人が、「よろしく」と笑顔で声をかけてくれた。
「じゃあ、僕から自己紹介しますね」
ふくよかな細目男が立ち上がり、微笑みながら口を開いた。
「カーター・デュカズです。ルイス班班長代理をしています」
イエーイと、カーターの隣に座る大柄な男が盛り上げて、全員で拍手をした。
「ルイス班唯一の妻子持ちだな!」と大柄な男が付け加える。
そして、その大柄な男が自己紹介を始める。立ち上がると身長は190cmくらいありそうだ。半袖のTシャツから筋肉隆々の太腕が伸びている。胸筋もかなり鍛え上げられている。
「ディラン・ロシェだ。カーターのパートナーしてるぜ! よろしく!」
屈託のない笑顔で明るくポーズを取りながら言った。隊員達はディランの明るさに便乗しようとせず、冷静に拍手をする。
そして次の自己紹介。
クールな表情でスッと立ち上がり女性兵が挨拶をする。
「アイリーン・ランバート。よろしく」
そう早口で言うなり拍手を待とうともせず、すぐに着席してしまった。黒色の長い髪は細く滑らかで、またきつい顔立ちをしているが美人の類いだ。せっかく希少な女性兵なのに、仲良く喋れそうになく、エミリアは悲しい気持ちになった。
最後にアイリーンの隣席の眼鏡の男が立ち上がる。エミリアと一番歳が近そうだ。
「クリス・ジュブワ。アーデルランド大学卒。入隊3年目。よろしく」
こちらも笑顔は見せず真顔で挨拶をした。
アーデルランド大学は国内で一番偏差値の高い大学だ。一般の大学卒で軍人になる人は珍しいと思うのだけれど、きっと頭が凄く良いんだろうなとエミリアは思った。
「隊長は挨拶しないんですか?」
カーターが笑顔で言った。
「俺はいいだろ」
「流れ流れ!」
ディランが囃し立てる。
ルイスが困りながら席に座ったまま言った。
「ルイス・ゲラン。第1箒兵大隊 大隊長です」
「イエーイ!」とディランがまた大声で元気よく叫んだ。
エミリアはルイスの隣で、気まずい思いで青ざめた。
エミリアは何度か大隊長室に呼ばれた事がある。初めはただルイスが用事があって大隊長室にいるのかと思っていたが、室内での堂々とした振る舞いや、デスクで仕事をしていて、まさかと思った。
エミリアの訓練学校時代の座学の記憶によると、大隊長とは大隊のトップ。エミリアには明らかに20代(若しくは30代?)のこの男が、大隊長だとは思えなかった。しかしカーターやディランが年下のルイスに対して敬語を使っている。エミリアは、中尉と中佐だと、中佐の方が偉いという事を思い出した。
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