第21話 ラフレシアンを一掃します
ルイスが訓練場で整列している隊の前へ立ち、連絡事項を伝える。
「A地区でラフレシアンが大量発生。すでに歩兵部隊が対応中だが、第1に応援要請が来たので、これから駆除に向かう」
隊員達がどよめき、空気が重くなる。
「マスクつけろよ。出発!」
ルイスの指示により、隊員達は班単位で陣形を取りながらA地区へ向かう。
ルイスは隊の先陣を切り飛行。その後ろにカーター、ディラン、アイリーン、クリスと続いた。
ルイス班の少し後ろを翼を広げるような形で、第1箒兵部隊の隊員達が飛行している。入隊初日に会った、いかつい顔のリーダー的な中年兵は、ルイスの右後ろに班員を引き連れて飛んでいる。
初めての大隊での行動で、エミリアはルイスの立場を再確認した。確かにルイスの魔法は凄かったが、大隊長だとは未だに信じられない。
エミリアは後ろをちらちらと振り返りながら、飛行する隊員達を見ていると、ふと、アイリーンと目が合った。エミリアをとても睨んでいる。
エミリアは慌てて前を向いた。
第1メンバーに認められたい。そう思ったエミリアは、モンスターの情報収集を始めた。
「あの……ラフレシアンってなんですか?」
目の前にある背中に向かって質問をした。
「は!? ラフレシアンを知らないのか!?」
ルイスが不機嫌そうに振り返った。
「お前、分かってはいたが、勉強が足りんようだな……」
「す、すみません!」
聞いたのは失敗だったと、エミリアは青ざめた。
「巨大花だよ。低級モンスターなんだが、体臭がめちゃ臭い。臭い花粉も飛ばしてくるし、触手に捕まると本当酷い目に合う。基本的には遠方から火炎魔法をぶっ放す」
「それでマスク……マスクでどうにかなるレベルなんですか?」
「なんねぇよ。ただ気分的にマシかなってだけ……」
エミリアが、どれだけ臭いんだろうと思っているうちに、異様な臭いが漂ってきた。地上を見ると、草原の一部が赤色に染まっている。よく見ると巨大花の集合体だ。1体2m近い大きさの花が、太い蔓のような足でうようよとうごめいている。
「臭っ!」
エミリアは、思わず口に出した。屍肉のようなとても強烈な異臭。ゴブリンに引き続き、軍人はこんな臭い仕事ばかりなのだろうか、と顔をしかめる。
「吐くなよ?」
ルイスがエミリアをからかうように言った。
「はい……」
ゴブリンでの失態は忘れてもらいたい。
ラフレシアンとある程度の距離をとって、ルイスの合図で大隊が空中で箒を止めた。
「凄い数ですねぇ」
カーターがルイスの隣で言う。
「歩兵には厳しいよな」
ディランが呟く。
エミリアが地上を見ると、歩兵が束になって一体のラフレシアンと戦っている。魔法や槍などの武器を使って挑んでいる。ラフレシアンの蔓に捕まって、身動きが取れない兵士もいる。地上は上空よりもさらに強烈な異臭だと思うと歩兵達が気の毒でならない。
「ラフレシアンなんか火炎魔法で簡単に倒せますよ」
クリスが強気に言った。
「そんな事言って、ラフレシアンの蔓に捕まっても助けてやんないわよ」
アイリーンがクリスに鋭い目を向ける。
「大丈夫ですよ。捕まる事なんて万に一つもありませんから。アイリーンさんこそ気をつけて下さいね」
クリスが笑顔でアイリーンに言ったが、心は笑ってなさそうだ。アイリーンとクリスは仲が悪いのだろうか。不穏な空気にエミリアは戸惑った。
「上空より一斉砲火。ユーゴ中隊は歩兵の支援へ」
ルイスが指示を出す。
「はい」
入隊初日に会った、リーダー格の中年兵が、厳つい顔のまま返事をする。
やはり、この中年兵よりルイスの方が上官なのか。エミリアは、ルイスを先輩呼びしてしまっていることに、酷い気まずさを感じていた。
ルイスが右手を上げ、攻撃開始の合図。箒兵達が急下降し、各々火魔法の炎矢や火球を呼び起こし、ラフレシアンに直撃させる。
ルイスもラフレシアンまで急降下。エミリアは臭さと落下の恐怖で息を止めた。
足元に深紅の複雑な紋様の出現。刹那、四方に大炎が出現しラフレシアンに襲いかかり燃焼する。周囲は恐ろしく魅惑的な灼熱の炎に包まれ、ラフレシアンは灰と化す。
現場は、第1箒兵部隊の活躍で徐々に収束していった。
そしてエミリアは気づいた。
今回、回復魔法も防御魔法も何もしていない事に。
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