第16話 ゴブリンを退治します。臭いです②
村へ戻り、村長へゴブリン退治の報告を行った。
エミリアは悪臭で体力が奪われ、ルイスと村長から少し離れて、弱々しく背中を丸めて立っていた。
村長がエミリアの状態に気付いて、シャワーを浴びていきなさいと自宅に招いてくださった。
「……先輩、先にシャワー借りますか?」
ルイスも全身にゴブリンの刺激臭が染み付いてるので、エミリアは聞いてみた。
「いや、俺はいい」
ルイスがそう言ったので、エミリアは構わず先に家の中へ入らせて頂いた。
「まさかこんなに可愛らしい女の子が来てくれるなんて思ってなかったわ。大変だったわねぇ」
村長夫人が、玄関からまっすぐ浴室に案内しながら心配するように言った。
「いえ……」
エミリアは遠慮がちに笑った。殆ど何もルイスの役には立てなかった。
「服は洗っておくわね。代わりの服を用意しておくから」
夫人は、エミリアが酷い悪臭にも関わらず親切だ。
「すみません……ありがとうございます」
エミリアは夫人の優しさに涙が出そうになった。最近、周りのあたりがきついせいか涙腺が緩い。
全身にシャワーを浴びて、用意してくれた服に着替え、夫人のいるリビングへ行く。
「シャワー貸して下さり、ありがとうございました」
エミリアが少し照れながらお礼を言った。
村長の家は壁中にキルトが飾られ、年代を感じる家具とソファ、全体的にレトロな雰囲気である。
「ごめんなさいね。若い人が着るような服がなくて」
貸して頂いたのは、お年を召した方の体の線が出ない薄茶色のシャツワンピース。
「いえ、ありがとうございます。助かります」
エミリアは、夫人の気持ちが嬉しかった。
玄関の外にいるルイスを呼びに行く。
ルイスは上着を脱いで白シャツ姿であった。
「先輩、終わりました」
ルイスがエミリアを見て一瞬固まり、目を逸らして拳を口元に当てゴホンッと咳き込んだ。拳で隠しているが、口元が緩んでいるのが、エミリアには分かった。
失礼な男だ、とエミリアはムッとした。
「じゃあ、お礼を言って帰るか」
ルイスが上着を持って立ち上がった。
「先輩はシャワー借りないんですか?」
「俺はゲロまみれじゃねぇもん。寮帰ってからシャワー浴びる」
「失礼な! 先輩も臭いですよ!」
「うるせー!」
「あ、隊長だ」
午後の訓練中、女が演習場から空を見上げて、パートナーの男に呟いた。
「本当ですね」
かなり遠い位置なのに、よく気づいたなと男は思った。
女は空を見つめながら、いつもとの違いに気づく。
「後ろに誰か乗せてる」
徐々に駐屯地に戻ってくる「隊長」を、二人は目を凝らして見つめた。
隊長の後ろにひらひらと薄茶色のスカートが見え隠れしている。
「お婆さん? 乗せていますね」
男が眼鏡の縁に指を添えて、眉間に皺を寄せながら答えた。
女はその回答を少し動揺した声で否定した。
「違う……あれ、うちの新人だ……」
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