第15話 ゴブリンを退治します。臭いです①
恋人ベルトを手に入れてから、初めての勤務日。
朝、エミリアが部屋で身支度をしていると、ノック音が聞こえた。
ルイスだ。
「今日は朝礼出なくていいから、このまま出るぞ」
「! はい!」
初めて任務に同行させてもらえる事になり、エミリアは嬉しかった。寮の外へ出て、そのまま箒に跨がる。二人乗りは気まずかったが、すぐにそんなエミリアの気持ちは恐怖へと変わる。
高度が高い。空へ高く高く昇っていく。そして、ぐんっとスピードを出して一直線に飛んだ。あまりにも早いスピードで、エミリアは一瞬叫び、そして声を失った。恋人ベルトをしていても、体が置いていかれるような勢いだ。
師団から30分、二人は現場へ到着した。古い家屋が何件か並んだ小さな集落。初老の男性が出迎え、ルイスと話をしている。
エミリアは、彼らから離れ、茂みの陰でこっそりと嘔吐した。
何気ない顔でルイスの元へ戻った後、エミリアは村長であった初老の男性に挨拶をした。途中から話に参加したが、どうやらゴブリンが集落の近くに巣を作り、村を襲ったようだ。
村長がエミリア達をゴブリンの巣近くまで案内をした。村長が村へ戻ってから、ルイスはモンスター退治の準備を始めた。首にタオルを巻き、口と鼻を布で覆う。今から芝刈りをするかのような格好だ。エミリアも真似して同じ格好をした。
エミリアはひたすら防御魔法をかけることのみ指示された。
準備が整い、ルイスは長い足でさっさとゴブリンの巣である洞穴へと向かった。エミリアは心の準備ができないまま、慌ててルイスの後ろを着いていった。
急に怖くなってきたが、逃げることはできない。
二人は洞穴の手前で停止し、ルイスが煙筒を勢いよく投げ入れた。
穴の中から煙がもくもくと上がる。
しばらくして、身長1m程の、手足の細いゴブリンが現れ、ルイスに飛びかかった。エミリアは、声をあげ、しゃがみこんだ。ゴブリンの顔は醜悪、目がぎょろりと大きく飛び出ていてなんとも気持ちが悪い。
ルイスは、洞穴から次々に出てくるゴブリンを一匹残らず、風刃魔法で駆逐していく。
エミリアは、半分背中を向けてしゃがみつつも、自らの使命を果たして、ルイスと己に防御魔法をかけ続けた。エミリアの細腕をゴブリンが掴み、襲いかかろうと棍棒を掲げた瞬間、隣にいたルイスに足蹴りされ、吹っ飛んだ。
ゴブリン1匹くらいどうにかしろ、という目で、エミリアを睨みつけ、またルイスは洞穴から逃げ出すゴブリンを退治しに戻った。
しばらくして、全てのゴブリンを退治し終えた。
風刃魔法によって、首と胴体が切り離された死体がごろごろと転がっていて、惨たらしい光景だ。モンスターよりルイスの方が恐ろしいとエミリアは思った。
周囲には何とも言えない臭い匂いが漂う。
「巣穴に入るぞ」
「えぇ!?」
エミリアが驚くと、ルイスが恐ろしい形相でエミリアを睨みつけた。お前は本当に軍人か? とでも言いたげな表情だ。エミリアは泣き出したい気持ちを我慢して、ルイスの後に続き、ゴブリンの巣穴へと入った。
真っ暗な洞穴を進むと、一番奥に、石で出来た祭壇のようなものがあった。ルイスはその手前で停止し、暫く祭壇の中心にある石板を眺めていた。
巣穴の確認を終えて、外へ出ると、風が吹き気持ちが良い。
「……死体、処理するぞ」
「はい……」
まだ仕事が残っていたのか、エミリアは青ざめた顔で返事をした。
二人でゴブリンの手足を持って、死体を一箇所へ集める。
「腹が破裂する時があるから、気をつけろよ」
「どう気をつけるんです――」
そう聞こうとした瞬間、ぶしゅっと音を立てて、ぽっこりと出ているゴブリンの腹が破裂し、体液がエミリアの上半身へとかかった。ドブが凝縮したようなひどい悪臭がエミリアを襲う。エミリアは持っていたゴブリンの両足をすぐさま離し、我慢出来ず、うげーっと地面に嘔吐した。あまりの刺激臭に涙も同時に出る。
「お前、今日、吐いてばっかだな」
ルイスが馬鹿にするように笑う。先程も箒に酔って、エミリアが吐いていた事を知っていたようだ。エミリアは目つきを鋭くして、ルイスを睨み、口元を拭いた。
死体の山が出来上がり、焼却するため、ルイスが火炎魔法を唱えた。
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