第30話 転送魔法とは何ぞや?

 シルド市立病院からの帰路、街で食材の買い出しをしてから駐屯地へ戻る事となった。ルイスの入院中、エミリアは結局退院するまで毎日食事を作って持っていっていたので、ルイスがお礼に食材を買ってくれる事になった。


「食費は出すから、また料理作ってくれる?」


「いいですけど」


「いつ?」


「え、じゃあ明日」


 散々迷惑をかけているので、断る事などエミリアには出来なかった。上司に食事なんて面倒くさいなとも思いつつ、一人分も二人分も大して変わらないし、何より自分の作った食べ物を気に入ってもらえるのは純粋に嬉しい。



 二人で市場を歩き、新鮮な野菜を次々と購入した。仕事が休みの日しか買い出しに出られない為、購入する食料は多くなる。エミリアが食材を選び、ルイスが大量に購入した食料が入った紙袋を持っている。


 知り合いに鉢合わせたら変な風に思われないだろうか。

 入隊してまだ日が浅いが、ルイスが隊員から人気なことはエミリアは既に知っている。


「……先輩、やはり私が荷物持ちます」


「いいよ。てか全部買ったら転送するつもりだし」


「転送?」


「これくらいの食料品なら、転送魔法で寮のお前の部屋まで送れるはずだから」


「え! そんな便利な魔法があるんですか! その呪文教えて頂けますか!?」


 転送魔法なる魔法が使えれば、週一回の食料の買い出しも楽になる。


「あ、無理。ライセンス必要だから」


「ライセンス……どうやったら取れますか?」


「士官にならないと取れない。使いたけりゃ出世だな」


「出世……」


 エミリアにはとても縁遠い言葉な気がした。そして出世したところで、エミリアが転送魔法を会得できるかどうかは分からない。



 部屋に戻ると購入した食料が届いていた。ルイスの魔法に感動しながらエミリアは気分良く紙袋を開けたが、驚きで声を失った。


 卵がぐちゃぐちゃに割れている。

 高い位置から落下したのか野菜も潰れてる。


「ひ……酷い……」


 エミリアは食材を見つめたまま声を震わした。


「あー、やっぱり駄目だったかー。いつも書類や衣類くらいしか転送しないからなぁ」


 ルイスがエミリアの部屋のドアから顔を覗かせた。


「やっぱり……? 言って下さいよ! せっかくの卵がぐちゃぐちゃですよ!」


「悪い悪い」


 ルイスが笑いながら謝った。

 エミリアは耳まで赤くして、ルイスを睨んだ。


「今度は転送局使うから」



 今度は?



 その言葉に引っかかりつつも、もう一つ気になる言葉が出た。


「……転送局って何ですか」


「荷物持って行けば転送してくれる店。街にいくつかあるよ」


 そんなサービスがあるとはエミリアは初めて知った。

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