第26話 キマイラとバトルします③

 辺りが騒がしくなる。箒兵達が、地面へ降り、現場の処理をし始める。

 エミリアは放心状態で膝をついたまま立ち上がる事が出来ない。

 3人の人間がエミリアの前に止まった。


「こいつの具合は?」


 ルイスが隣にいるアイリーンへ尋ねる。アイリーンが膝をつき、エミリアの状態を確かめた。


「エミリアはすぐ治せますよ。念のため軍病院へ連れて行きます」


 アイリーンが立ち上がり、次にルイスへと向く。


「ルイス隊長は、とりあえずの処置はしましたけど、早急に病院に向かってもらいます。あとキマイラの毒にあたっていますので、これから解毒魔法をかけます」


 アイリーンが詠唱を始めようとするのをルイスは止めた。


「いい」


「はい!? 早く解毒しないと……!」


「いいから」


 ルイスがアイリーンに何か目で合図をする。アイリーンは、「分かりました」と頷き、クロエと共にその場を離れた。



 エミリアはぼうっとした頭で、立ち去って行くアイリーンとクロエを見つめていた。


「いつまで座り込んでんだ。さっさと立て」


 エミリアは、ハッとしてルイスを見た。ルイスの怒りで歪んだ顔に、エミリアは青ざめながら、よろよろと立ち上がる。気付けば体の痛みが消えている。回復魔法が効いたのか。


「お前……俺のパートナー辞める?」


 エミリアは全身から血の気が引いた。それはエミリアが今一番言われたくない言葉だった。第1箒兵部隊に認められたくて、ルイスに認められたくて、これから更に頑張っていくつもりだった。


「どうして……」


 やはり第1箒兵部隊では、力不足だったのか。防御魔法が破られてしまった。そのせいでルイスも民間人も死んでいたかもしれない。

 私の居場所はアーデルランド軍にはない。厄介者でしかない。

 エミリアの頬に涙が伝った。


「別に防御魔法が破かれたせいで言ってるんじゃないからな」


「……じゃあ、どうして……」


「お前の心が折れたからだよ! 防御魔法破かれたくらいでショック受けてんじゃねぇ! 普通の兵士なんか入隊1日2日で破かれるんだよ! 工夫しなきゃ俺も破かれる! モンスターの直撃受けようが頭を働かせて動き続けろ! 生き残る方法を考えろ!」


 エミリアは、ルイスが息切れしている事に気付いた。

 包帯が巻かれた足や腕から血が滲んで広がっている。回復魔法で止血されたはずなのに、血が止まってないように思える。キマイラの毒が回っているのだ。回復魔法を使ったところで解毒してないから。


「お前俺の相棒だろ。パートナー辞める気がないなら、お前が俺を治せよ。他の奴らに回復魔法使わせてんじゃねぇ」


「……クビじゃないんですか……?」


「早くかけろよ。解毒魔法使えんの? もう頭がぐるぐる回ってやばい」


「す、すみません! 使えます!」


 エミリアは慌てて解毒魔法を唱えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る