第25話 キマイラとバトルします②

 耳鳴りのおさまりとともに、視界もはっきりとしてきた。エミリアは地面に倒れていた。顔を上げると、目の前でルイスが障壁を張って立っている。障壁の外には三つの獰猛な顔を持つ巨大な体躯のキマイラ。地上から見るキマイラはより巨大に見える。鋭い歯をこちらへ向けて、障壁を破ろうと、爪を振りかざし、強力な体当たりを繰り返している。エミリアは恐怖で震え、体を丸めた。


「おい! 目が覚めたなら回復魔法唱えろ! 」



 回復? そうか、回復魔法唱えなければ……



 エミリアは激痛が走る身体をゆっくりと起こし、震える手を目の前へと伸ばす。

 視界は恐怖と緊張で狭まりルイスがよく見えない。耳も遠い。


「誰に……?」


「俺とお前! 民間人は無事だ!」



 民間人。障壁の管理をしなければ。障壁は破れていないだろうか。



「早く俺に回復魔法をかけろ!」


 エミリアは、真っ白になったままの頭で、指示されるがまま回復魔法を唱えた。

 それが、効いているのかどうかは分からない。


 暫くして、ルイスの右手で抑えられていた障壁が一瞬解かれ、即座に左手から氷魔法が放たれる。槍のように鋭利な氷柱が、巨体のキマイラを地面へなぎ倒し、氷柱はまるで杭のようにキマイラの肉体を貫き、地面へと突き刺して、動きを封じた。


 ルイスはキマイラへと歩を進める。足元にはまたも魔法陣が出現。

 魔法陣は一重の弧を描くと初級魔法。二重は中級魔法。三重で上級魔法だ。また初級魔法は魔法陣内の紋様もシンプルだが、強力な魔法になるにつれて、発動まで時間がかかり、紋様は複雑で魔法陣は大きくなっていく。上級魔法はかなりの魔力を消費するので、会得していても、そう何度も使えるものではないらしい。


 ルイスはいつも二重以上の魔法陣を描いている。そして、エミリアが訓練学校時代に暗記したような長い詠唱文を唱える事はなく、無詠唱で即座に魔法陣の複雑な紋様を構築していく。これが第1箒兵部隊の大隊長たる所以なのか。


 クリスやアイリーンがルイスに憧れるのも、エミリアには分かる気がした。今までパートナーを付けなかった理由も。ルイスにパートナーは本当に不要なのだ。魔物を倒す圧倒的な魔力と技術を彼は持ち合わせている。


 ルイスは、キマイラの目の前で、歩みを止めた。

 恐ろしくも美しい魔法陣は四重の弧を描き完成。

 周囲の空気が張り詰める。エミリアは肌がピリピリと痛むのを感じた。高密度の魔力が解き放たれようと凝縮する。


「滅せよ」


 キマイラが氷の結晶に閉じ込められ、細胞が破壊される。

 見るも無残だ。ルイスは、キマイラよりも恐ろしいSS級モンスターだ、とエミリアは思った。



 別の方角から更なる攻撃魔法がキマイラに直撃した。息の根が止まるまでの一斉放射。エミリアが空を見上げると、沢山の増援がやってきていた。カーター達もいる。エミリアの身体が翡翠色の光に包まれた。誰かが回復魔法をかけてくれたのだ。助かった……。エミリアはどっと身体の力が抜けて、その場にへたり込んだ。

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