第52話 腹出すなよ!

 ルイスは数量限定の貴重なブランデーが手に入ったので、ロミオを呼んで部屋飲みをする事にした。最近ルイスは毎週月水金にエミリアの料理を食べているのだが、金曜日にロミオと飲み会をする事になったので、エミリアも誘ってみた。エミリアは頷き、パスタを作ってくれることになった。


「……料理作りたくない日は断ってくれていいからな」


 エミリアの料理を頻繁に食べられるのは有り難いが、ルイスが上官だから断りづらいのではないかとも思う。


「分かりました。でも一人分も二人分も作る手間は変わらないので、気にしないで下さい」


 そう言うので、ルイスは引き続きエミリアに甘える事にした。


 夜六時。ルイスは残業することなく部屋に戻った。室内は、服やら本やらで散らかっている。それらを部屋の片隅に移動させて少し掃除をした。


 そしてしばらくすると、エミリアがやってきた。エミリアは自分の部屋から鍋や食材を持ってきて準備を始めた。ルイスは、何か手伝おうかなと思いつつも、テキパキと動くエミリアの邪魔になりそうなのでやめた。


 自分から誘っておいて何だが、簡単に男の部屋に入るのは如何なものか。エミリアは、もっと警戒心を持った方がいいんじゃないだろうか。女に飢えている隊員は沢山いる。

 そんな事を考えながら、ルイスはキッチンに立つエミリアの背中を見つめた。



 夜七時。ロミオがやってきた。手にはワインと紙袋。エミリアが来ると聞いてケーキを買ってきたようだ。ケーキと聞いたエミリアの顔はパッと明るくなった。 



 シーフードパスタが出来上がり、三人席について、ルイスは取り寄せしたブランデーの栓を開けた。エミリアに尋ねると少しだけ飲むというので、三人分のグラスにブランデーを注いだ。エミリアは舞踏会の席で、酔っ払ってすぐ寝ていたのに、ブランデーなんて飲めるのだろうかとルイスは心配になった。結局、少し飲んでみたもののエミリアには強過ぎたらしく、ロミオのアドバイスで、残りはオレンジジュース割りにして飲んでいた。


「今年の訓練生どう?」


 ルイスは、シーフードパスタを食べながらロミオに質問した。


「みんないい子だよ」


 ロミオが笑う。


「箒兵になれそうな奴いる?」


「素質ありそうな子はいるよ。どうにか来年も数人箒兵部隊に入れたいね」


 ロミオの担当は今年もエミリアが卒業した16組。魔力の低い者や魔法技術に乏しい者が多いので、難関の箒兵部隊に入れる人数は少ない。



 話が一区切りして、ロミオはケーキを取り出した。

 エミリアは、ロミオが持ってきたケーキを、今日一番の笑顔で美味しそうに食べた。

 ワインも飲み終えて、そろそろお開きの時間。

 ルイスは二人を見送り、ふとエミリアを見て、ギョッとした。


「お前、顔真っ赤じゃん!」


「すぐにこうなっちゃうんです。お腹まで真っ赤になるんです」


 エミリアがふわふわとした口調で言って、シャツの裾を両手で持つ。


「お前、絶対見せんなよ」


 ルイスは眉間に皺を寄せた。


「見せませんよ!」


 エミリアが膨れツラをルイスに向けた。

 ロミオは、はははと笑っている。


 そして、エミリアは隣の部屋へ戻り、ロミオは教官寮へと帰って行った。

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