第73話 リパロヴィナ宛の手紙
デュポン暦2023年3月
「はい。これお土産」
休日。シルド市のカフェにて、ソフィアがエミリアに手のひらサイズの紙袋を渡した。先月彼氏のいるリパロヴィナ国に行ってきたのである。エミリアはお礼を言い紙袋を開けてみると、鍵の形をした飾りに若草色の革紐をつけたブックマークが入っていた。アンティーク風で可愛い。帰宅したら早速勉強中の魔術書に挟んでみよう。
「リパロヴィナどうだった?」
エミリアはわくわくドキドキしながら聞いた。
「うん。楽しかったよ」
ソフィアが控えめに微笑んだ。
「それで?」
エミリアは興奮が隠しきれない。
「はい。えっと――」
ソフィアは2泊3日で滞在し、紅茶専門店やオーガニックコスメの店を見てリパロヴィナの地を観光したそうだ。雑貨屋、カフェ、全てが目新しくて楽しかったとソフィアは教えてくれた。
「結構色々あるんだね」
リパロヴィナ国はアーデルランドに比べると国土が小さく、経済面は遅れていると言われている。失礼だが、エミリアはもっと田舎を想像していた。
「首都だからね。ホテルも綺麗だったよ」
ホテル……
少し躊躇しながらもエミリアは質問してみた。
「ホテルはその……ヴィートさんと?」
「うん。一人部屋というのも値段が高いからツインにしたよ。もう付き合ってるしね」
「そっか」
驚きながらもエミリアは納得した。しかしそれ以上の事は聞けずに、少し狼狽えながら一先ずジュースをストローで啜った。
「結局ベッドは一つしか使わなかったけど……」
「きゃー!!!」
ゴクリとドリンクを飲み、エミリアは大きな声を出した。
それ以上の話はカフェの周りのお客に聞こえるとまずいので、二人はカフェを出て、芝生の広がる大きな公園のベンチに座り、続きのトークをした。
なんとソフィアは一線を越えたようだ。
エミリアには怖いなと思う話だったが、ソフィア的には嫌な事ではなかったらしい。
「――私にはできないや……て彼氏いないけど」
「そのうちしたくなるかもよ? ルイス中佐なら優しくしてくれるよ」
ソフィアが笑う。
「キャー!! やめて!」
エミリアは真っ赤になって、また大きな声を出した。
でも、一線を越えるなら、相手は先輩がいいな……
エミリアは、その後、別の男の顔が頭をよぎった。彼との関係をはっきりさせないといけない。
デートをした後、ルジェクは宣言通りVENAのカトラリー、チーズナイフを送ってくれた。木製のカッティングボードもついていた。エミリアの好みのものだった。ルジェクは本気なのだろう。だけど、エミリアには応えることは出来ない。
エミリアはずっとどうすればいいのか考えていた。
「ソフィア……、リパロヴィナの紙幣持ってる……?」
夜、エミリアは寮の部屋で手紙を書いた。
何度も何度も書き直し、もう会わない事、手紙も出さない事を綴った。頂いたVENAのカトラリーに相当するリパロヴィナ紙幣も同封した。この手紙を受け取るルジェクの事を思うとエミリアは胸が痛くなった。しかし余計な期待を持たせる事は出来ない。どうか早く他に好きな女の子が出来る事を願う――
***
「ルジェク少尉ー! 飯食いに行こうぜ! てお前どうした?」
ルジェクの同期で班員のヴァシリー軍曹が、手紙を持って棒立ちしているルジェクに話しかけた。
一瞬間をあけてルジェクが笑って答える。
「別に、何も」
ヴァシリーには、それが作り笑いな事がすぐに分かった。
「臨時収入入った。今日奢ってやるから飲みに行こうぜ」
「なんだ、お前。男に奢るなんて珍しい。気持ちわりぃな」
「なんだよ。そんで俺上官なんだけど、全く敬意感じねぇな」
ルジェクは、ヴァシリーと二人、肩を並べて街に出掛けた。
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