第49話 マッティア中隊長は女子力が高いです
「エミリア上等兵、少しお話があります」
業務終了後、訓練場にて、マッティアがエミリアに話しかけた。仕事中のマッティアは、紳士で仕事の出来る格好いい中年男性だが、実は中身は乙女である。
エミリアは、マッティアとエマに引き連れられて、士官寮にあるマッティアの部屋へ向かった。マッティアは、流石に部屋に入る時は周りを気にして、人がいない時にこっそりエミリアを室内へ招いた。
部屋にある調度品はどれも高級感があり、デザインにこだわっているように思える。ソファー手前、ローテーブル下に敷いているカーペットも肌触りが良い。エマは自分の部屋のようにソファーに座り寛ぎ、エミリアはカーペットの上へ座った。
マッティアは、慣れた手つきで二人に紅茶を差し出し、自身は私物であるアンティーク風の一人がけのソファーに座った。そして、目を細めて厳しい目線でエミリアを見つめた。
「で? 包丁は買って頂いたの?」
「はい」
マッティアは、落ち着きを装っているが、より一層険しい顔つきになる。
「つまり、イエローのワンピースを着て、デートしたの?」
「いえ、デートなんてしてないです。ワンピースもまだ着てなくて……。包丁は、巡回帰りに雑貨屋さんに寄って、買って貰ったので」
巡回帰りに寄り道をした事を言って良かっただろうか。軍規違反?
エミリアは口をつぐんだ。休日にルイスと食料品を買いに行く事もあるのだが、マッティア的にはデートという事になるのだろうか。食料品を転送局に持って行った後はルイスとは分かれていのだが。
エミリアがルイスとの関係性について掘り下げられまいかドキドキしていると、マッティアがため息をついた。
「デートまでこじつけなさいよ。せっかく可愛いワンピ買ってあげたんだから!」
マッティアはどうやら本当にエミリアの恋を応援してくれているようだ。
「ワンピースは凄く嬉しくて! 今度同期と遊ぶ約束をしているので、その時には着させて頂きます!」
ルイスの前であの可愛いワンピースを着て、もし引かれでもしたら悲しいので着れない。
「んもーぅ」
マッティアは面白くないとでも言いたげな顔をしている。
その後、マッティアは夕飯用に作り置きしていた料理をエマとエミリアに振る舞った。マッティアは料理がとても上手だ。見た目もオシャレで、食器皿にもこだわっている。まるでレストランで出される料理のようだ。エミリアの作る料理は素朴な家庭料理ばかりで盛り付け等こだわっていないので勉強になる。
夕食をご馳走になった後エミリアは部屋を出た。
「ご馳走さまでした。とても美味しかったです」
エミリアは一人廊下を出て挨拶をした。
「いいのよ。また食べに来てね」
マッティアが淑女のように笑う。
「ありがとうございます」
エミリアもマッティアに笑いかけた。
その直後、廊下側から馴染みのある男の低い声が聞こえた。
「マッティア。これ渡し忘れてた書類」
エミリアは一瞬にして血の気が引いた。おそらくマッティアも。
ルイスがドアを開けているマッティアに書類を渡した。
エミリアはつい気が緩んで、周りに人がいないか確認せずに廊下へ出てしまっていた。
「それじゃ、また明日。おつかれ」
ルイスが何もなかったかのように素っ気なく立ち去る。エミリアとマッティアは暫し呆然として、先にマッティアが動き、ルイスを追った。
「ルイス中佐!」
ルイスを呼び止めたマッティアはすでに男の顔になっている。
「実は叔母が料理を沢山送って下さいまして、食べきれないので、エミリア上等兵に手伝って頂いていたのですよ」
「私もいるぞー!」
エマがドアから顔を出して、廊下先の二人へ聞こえるように叫んだ。
「あぁ、例の叔母か」
「そう。料理好きの。そういえばルイス中佐に昨年叔母の手作りジャムを渡しましたが、今年もラズベリーの収穫を私が代わりにしなければいけなくて、もし宜しければエミリア上等兵と四人で収穫に行きませんか? ジャムのおすそ分け出来ますよ」
「あれ美味かったな! いいぞ!」
ルイスは二つ返事で引き受けた。
ルイスは本当に食べ物に目がない、とエミリアは思った。
「叔母ってマッティアの事な。本人は料理する事バレたくないらしい」
エマがエミリアへ耳打ちした。
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