四人の女神【中編】
『そうです。バーサークは酔って守るべきティターニアのかけら——母のかけらを地上に落としてしまいました。それが先代戦巫女、クレースに拾われて、エメリエラになったのです。武神族の中でもバーサークは特に責任が重い。だから力ずくでも取り戻そうとしているのですわ』
『ここ三日間、その動きは確認いたしました。女神ナターシアの名において、バーサーク他、武神族の空間干渉は我が二度とさせません』
ナターシアは風属性の女神なのだという。
天神族でもっとも空間の使い方に長けているので、脳筋の武神族は二度と真凛様を空間に迷い込ませたり干渉して連れ去ろうとするなどできないだろう、とのことだ。
た、頼もしい!
「よかったですね、真凛様」
「はい! ありがとうございます、ナターシア様!」
『よいのですよ。元々我らはあなたたち人間族など、取るに足らない生き物だと見捨てるつもりだったのですから』
「!」
あ、それ普通に俺たちに言っちゃうんだ?
さすが女神。
メンタル強ぇ。
『けれど、母のかけらから生まれた妹が、人間族に味方している。その上、妹が懐いている戦巫女は人魚族の女王を懐柔し、友人関係になった。加えてゴルゴダの不公平な横槍を、あなたたち人間族は受け入れてなおものともしない。ゴルゴダが戦争で散った戦士の魂を喰らっているという話の立証がされれば、我ら女神族はゴルゴダを討伐することも視野に入れて動きます』
「!」
つまりゴルゴダの日頃の行いが悪すぎるので、俺たちの主張する『敗戦戦士の魂喰らい』まで立証してくれるなら女神族の方でゴルゴダを処理しますよ、ってことらしい。
だが、それの証明のために誰かに死ねって言ってません?
おっかねぇな女神!
『証明ならばもうされているだろう』
「鈴緒丸?」
『各種族の世話係、従属妖精たちだ。あれらは魂が入っていない。神ならばわかるだろう』
そうなの?
そういうもんなの?
え、っていうか……従属妖精——モモルには魂が入ってない?
『死者を再利用しているのは、確かに褒められることではありません。しかし、戦士は戦争に命を捧げているのではないのですか?』
『其方はそう聞いているのか?』
『……』
鈴緒丸の質問返しに、ナターシアはわずかに目を見開いた。
同じくイシュタリアは如実に驚いている。
……あれ? これは……?
「せ……戦争は大陸の支配権利を得るためのものです。わ、我ら代表者は、種族と国のために……戦争に参加しています。戦争に、命を捧げる、という話は……聞いたことがありません……」
意外にも女神たちに対して声を出したのはアニムだ。
というよりもアニムも驚いた顔をしている。
アニムは女神族にそれを伝えたあと、震えながら俺たちを振り返った。
え、ど、どうした?
「ど、ど、どういうことです? 人間族の代表者……。た、確かに初日にあなたが言ったことを、我々妖精族もあまり信じて、いませんでした。武神が戦争の参加者を……敗者の魂を喰うなど……。あなたの、我らに対する揺さぶりかと……」
「ああ、なるほど。そう思われたんですね」
「…………じ、事実、だと?」
めちゃくちゃ怯えてる。
まあ、そうだよな。
そうか、人間族の作戦だと思われたのか。
それで信じてもらえなかったわけか。
でも早めに言わないと、他の種族同士の戦いで死者が出てからでは遅いしな。
『死者の魂は循環するものだ。この世界の輪廻転生は天神族が管理しているのだろう? ならば自分たちで調べることはできるはずだ。なぜ無力と見下す人間族にその証明を強要する? 犠牲が出てからでは遅いぞ。一度の戦争で最高でも二十五の魂があの“祭壇”で消費されるとするのならば——ゴルゴダが喰った魂は、百に近いはずだからな』
『っ……』
その時、初めて女神たちが動揺を見せた。
一度の戦争で集められる戦士は二十五人。
『大陸支配権争奪戦争』がこれまで何度行われたのか、明確にわからないが——五回以上行われているのなら……。
まあ、生存者の数も関係するしな?
ただ前回大会は雷蓮が結構殺してしまった。
ゴルゴダの作戦勝ちと言われればそうなのだが、雷蓮の容赦がなさすぎる。
なので俺としては、そんな奴の転生者としてこれに関してどうこう言う権利がない、ような気がする……。
『逆に聞きたいのだが、この世界の神——主ら天神族は“ヒト”の魂を喰うとそんなに力が得られるものなのか? 儂はただの九十九神に過ぎぬ故、成り立ちの違う神の力の得方がようわからんのだけれども』
「天神族は信仰で力を増すんじゃないのか? エメリエラが、確かそうだったはずだが」
『そうなのだわ。エメは愛の力と人々の信仰心で強くなるのだ!』
だよなぁ?
アミューリアもそうだから、人間族は学園の名前にしたり、各所に教会が建てられたりしてるんだが。
『……そうですね。魂の行方については、調べてみましょう』
『わらわたち女神族は信仰心を集めやすい。なにしろ美しいからな!』
あ、ハイ。
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