四人の女神【後編】
『だが、武神族を信仰対象としているのは獣人族と妖精族くらいなものなのだ。故に力を増すには自分たちで戦いを行い、自らを高めることくらいしか方法がない! 下位の五種族——つまり貴様らだ! 貴様らの魂を喰らうことは確かに天神族の力を増す方法の一つ! だが!』
『わたくしたちはそれをしません。それをすると魂の循環に影響が出るからです。あなたたち人間族ならばその意味がよくわかるでしょう』
もちろんだ。
人間は転生する。
だから『ウェンディール王国』の王侯貴族は、『記憶継承』で来世により優秀な人間になるべく勉学や身体の強化に努めるのだ。
おそらく同じ種族——人間族ならば人間族にしか転生しないとは思うが。
ふと、そこまで考えて“俺”という存在のイレギュラーさを思い出す。
俺は五百年前にこの世界に現れた異界の剣士、鈴流木雷蓮の転生者。
間に何人転生してるのかはわからないが、少なくとも俺の一つ前は『ティターニア』でなく地球である。
この世界で循環するでなく、さらにまた別の異世界に転生したのはなにか理由があるんだろうか?
「あの、ではお聞きしたいのですが」
『なんでしょうか?』
せっかく詳しそうな人たちがいるのだから聞いてみよう。
手を挙げると、ティライアスが応えてくれる。
ありがたい。
「俺は——鈴流木雷蓮の転生者なのですが、一つ前の人生の記憶が強くあります。それはこの世界とも、雷蓮の世界とも違う世界の記憶です。この世界の中で循環するでもなく、なぜ俺のようにあちこちの異世界で転生する者がいるのでしょうか? それとも、俺はなにか特別なのですか?」
できれば普通がいいんだが。
そんな願いを抱きつつ、四女神を見上げると向こうも俺をジッと見つめていた。
無表情な美女四人に見つめられる威圧感ヤバい。
『ライレン・スズルギ……』
『ああそうか……そこの付喪神の言う通り……』
『あ! な、なるほど! ヤダ! 全然気づかなかったわ!』
『……そうですね』
「?」
なにやら四女神がハッとして、顔を見合わせ始める。
え、なに? 怖い。
『ライレン・スズルギ——彼の登場こそ、ゴルゴダの悪行の証拠……! この世界の民でない者がこの世界に現れた! それはこの世界の“人間族の魂”の減少の証明! ゴルゴダが喰らい、減った分の“補充”だったのだ!』
イシュタリアが叫ぶ。
途端にイシュタリアは怒りの表情でここにいないゴルゴダを睨むように『あの野郎!』と呟いた。
鈴流木雷蓮が、減った魂の補充。
……もう少し穏やかな奴を補充しようとか思わなかったんですか? 世界。
『あなたの一つ前の前世が、また別の異世界だった、という件——おそらくライレン・スズルギがこの世界で子を残さなかったためです』
「え?」
『ライレン・スズルギはこの世界で血を残さなかったのでしょう。だからあなたの魂もこの世界に定着しなかったのです。異世界からの転生者であっても、この世界で子孫を残せば転生の循環に魂が組み込まれます。ライレンの死後、魂は行き場をなくしてなにか別の縁を頼り、その世界に転生したのでしょう』
ナターシアがそう説明してくれたのだが、それだけではまだ解せぬ。
なら、俺はどうしてこの世界にまた、再び転生したのだろう?
地球に転生した理由は——多分『鈴流木流』だ。
俺の祖父が伝えていた剣術の流派。
“鈴流木の家を出るのなら、子に鈴の名を与えろ”……と母は祖父に約束させられたという。
それが縁……?
では、ここに戻ってきたのは?
「…………鈴緒丸か?」
『おそらくな』
見上げた鈴緒丸にも賛同いただけてしまった。
この世界に残された鈴流木雷蓮の愛刀。
地球の輪廻転生の理屈はわからないが、確かに俺は地球でも独身だった。
おかげさまの鈍器っぷりで童貞のままだったしな。
その理屈がもし地球でも通用するのなら、俺の魂は“縁”を求めて導かれ、この世界に再び転生した、ということなのか。
俺、異世界を股にかけすぎでは?
『そして、ライレン・スズルギの魂が異世界よりこの世界に再び転生してきたこと——それがなによりもの証明となる!』
イシュタリアの罵声にも似た怒りに満ち満ちた声。
循環すべき魂の不足。
それによって、二度もこの世界に招かれた俺と雷蓮の魂。
なんらかの理由で減るとしたら、女神が武神が
……皮肉だな。
いつも敗北者となる人間族。
だから特に、循環すべき魂の減りが早かった。
それにより呼び寄せられた鈴流木雷蓮。
その雷蓮により、多くの他種族の魂が喰われたがゴルゴダは損しなかった。
だが、その鈴流木雷蓮の魂はさらに減ってしまった魂の補充に彼の刀の縁に引かれてこの世界に転生してくる。
それが俺。
俺の存在が循環すべき魂の減少の確固たる証明となった、ってことか。
「では……ゴルゴダの討伐をお手伝いいたたけますか?」
ならば、ゴルゴダ討伐時にも女神族を味方にできるかもしれない。
そうなれば勝ち目が大幅に上昇する。
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