そんな気はしてた

 

「真凛様、とてもかっこよかったです」

「え、えへへ……。あ、でもクレヴェリンデ様はお話しすると本当に優しくて可愛い人ですよ。お茶会をする約束もしたんです! ローナ様やルティナ王妃ときっと仲良くなれると思うので、マーシャちゃんやメグちゃんやスティーブン様も誘ってたくさんお話したいと思います!」


 ちょっとその場にいたくないな、と思うお茶会だなぁ……。


「しかしまあ、これで明日の妖精族戦の結果どうなるか、だな。まさかここまで俺とケリーの出番がないとは思わなかった」

「そうですねぇ。俺も人魚族をけちょんけちょんにしなくてはいけないと思っていたのに、まさかの和解」

「あ、明日の妖精族との戦いもわたしが先鋒なんでしょうか?」


 そういえばこの場合どうなるのだろう?

 モモルに視線が集まるが、モモルは頭を下げるばかり。

 まだなんの連絡もないという感じかな?


「では昼食にしようか」

「まだそんな時間なんですね」

「わたし、クレヴェリンデ様に会いに行ってもいいですか?」

「いいと思うけど……ヴィニー、ついていってあげてね?」

「もちろん!」


 いくら和解したとはいえ、真凛様——もといエメリエラを狙う武神の存在はそのままだ。

 横槍を入れられる可能性はゼロではない。

 本来ならば軽率な外出は控えていただきたいのだが、全種族との不可侵条約と和平条約締結のために国際交流できるならぜひしておくべきだ。

 クレヴェリンデとの交流はその足がかりとなる。

 もちろん、すべて手放しで信用するのは危険だと思う。

 考えたくはないが昨晩人魚族がゴルゴダと密約を交わして、人間族——もとい真凛様を油断させてエメリエラと魔宝石を奪う作戦かもしれない。

 可能性としてはゼロではないので、真凛様を一人で行かせるわけにはいかないのだ。

 俺ならばついでに鈴緒丸がついてくるしな。


「では行ってきます!」


 戦闘がなく終わったため、聖域は昼前。

 明るいうちに出かけられるのはありがたい。

 モモルに「人魚領に連れてって」と頼むと、転移陣の上に促される。

 さて、無事に人魚族領に飛ぶことができるかな?


「行ってらっしゃいませ」


 モモルの声のあと、瞬きの間に景色が入れ替わる。

 美しい花園と小さな家々。

 そして、昼間のはずなのに星空。

 なんだ? ここ。


「モモル——は、やっぱりいない、か」

「ここ、人魚族領なんでしょうか……? なんかイメージしてたのと違います。もっと水場が多いのかと……」

「俺もそう思いました。……まあ、なんというか、これは——」


 蝶が飛んでる。

 蝶っていうか、蝶の羽根を持つ生き物。

 この『ティターニア』で蝶や蜻蛉のような虫の羽根を持つのは妖精族のみだ。

 妖精が花の蜜をストローで啜るというメルヘンでファンタジーな光景に、眩暈がした。

 俺、この世界に生まれてこの方十八年……ファンタジー世界に生きながら、ここまでメルヘンなファンタジーは初めて見た気がする。


「これはこれは、快進撃続く人間族の戦巫女と伝説の剣士、ライレンスズルギの転生者ではありませんか。我が妖精族領にようこそ」

「!」


 パタパタと近づいてきたのは、表情が邪悪な妖精。

 笑顔なのだが、悪意に満ちてるな。


「えっと、やっぱりここは妖精族領、なんですか?」

「? そですよ? なにかご用ですか?」

「あ、あれ? わたしたち、人魚族領にいくつもりだったんですけど……」


 ちらりと真凛様が俺を見上げる。

 俺はそれに対して笑顔を返すしかない。

 正直こうなる気はしてました。

 それよりも、こいつ……まさか?


「……てっきり明日の敵情視察に参られたのかと思いましたが……なるほど、先程仲良くなっていた、人魚族女王の下へ行こうとしていたのですか」

「はい、もっと色々なお話を聞きたくて! クレヴェリンデ様、お肌すごく綺麗だったし」

「? は、はぁ」


 うん、まあ、気持ちはわかる。

 人魚族領に行くにしても戦争関係だと思うよな。

 そのつもりで話を進めてたら、唐突にお肌の話されたらそりゃそんな顔にもなるだろう。

 真凛様……クレヴェリンデとお肌の話するつもりなのか。


「あ、わたしは人間族の代表の一人で昊空真凛と申します」

「あ、ああ、ボクはアニムといいます。妖精の国『カンパネルラ』の代表の一人です」

「明日のお相手さんですよね! よろしくお願いします!」

「は——はぁ……よろしく、お願いします……」


 とても困惑している。

 ですよね。

 ……そして、やっぱり敵国攻略対象との出会いイベント〜!

 妖精族の攻略対象アニム!

『カンパネルラ』の王弟であり、王と比べられてきたため非常に根暗!

 自己肯定感が低く、ゲームだとヒロインに共感して好意を抱く。

 敵国攻略対象の中ではもっともちょろい!

 いや、もっとも好感度が上がりやすいキャラ!

 伺うようにチラチラ真凛様を見るアニムは、最初の悪い笑顔から一転「この子なに言ってるんだ?」みたいな顔になってる。

 その顔、どう判断したらいい?

 攻略イベントなのか、純粋に「なに言ってるんだこいつ」なのか……。


「あの、すごく申し訳ないんですがこちらの世話係さんに頼んで人魚族領に連れて行ってもらうことは可能でしょうか?」

「あ、ぁ、あー、は、はい。大丈夫、ですよ。えっと……ドウシヨウ……」

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